神使の怒り 3-3




むろの周辺を照らし出し、辺りの様子を確認する。


本当は室の中の様子も見たいが、いくら家の主人が自由に見てくれと言ったとはいえ、警察官でもない彩香が勝手に人様の家のドアを開けて歩くのはおかしい。本当は廊下を歩き回るのもおかしいのだが……。


ふと、ライトで照らした壁に、傷のようなものを見つけて彩香は目を細めた。


壁には爪で引っ掻いたような跡がいくつかあり、ところどころ黒く擦れた跡もある。


しかし、その廊下周辺は静かなもので、リビングで話している五十嵐と高信の声がかすかに聞こえてくるほどだった。


やはり廊下の傷跡や汚れはその家にはそぐわないと思った彩香は、写真にその様子を収めることにした。


数枚写真を撮った後、今度は二階へと向かった。


階段を上がって、彩香は目を疑った。


どうやらこの家の住人は自室の部屋のドアを開けて出掛ける癖があるらしい。


外出中のライトの部屋のドアも、高信の部屋のドアも開いたまま。ひとつだけ閉まっている扉はドアノブに傷も汚れもほとんどないところを見ると客間のようだ。


まず、ライトの部屋から見ることにした。


ライトの部屋は閑散としていて、本棚には漫画の本が作者や種類ごとにきれいに並んでおり、机の上もベッドの上も整理されていて、突然の来客にも困らないほふぉきれいな部屋だった。


次に高信の部屋を見た。


同じように高信の部屋も整理されていたが、ライトとは違って物が多く、棚に収まりきらない物は段ボールの箱に詰めて壁際に積み上げたようだ。


その段ボールの箱の一番上に、よくお土産店で売っているキャラクターもののクッキーの缶が置かれていた。


彩香はその缶を一瞥した後、机の方へ足を運ぶと、デスクライトの下にペアリングのケースが置いてあるのに気付いた。


また、疑問が浮かび上がる。


彩香は少し考えた後、そのケースに手を伸ばし、蓋を開けて見た。


ダメだと思って行う行為ほど後ろめたいものは無い。


一瞬で中身を確認した後、すぐに蓋を閉めると、思わずため息をついていた。


そして、また禁断の行為に誘惑されている自分の心臓を落ち着かせる。


途中で誰も部屋に入ってこないように…そう願いながら、あのキャラクターもののお菓子の缶の蓋を開けた。


今度はさっきと違って缶の中に手を伸ばし、実際にそれらに触ってみる。


しかし、30秒もしないうちに蓋を閉め、元の位置に戻すと、高信の部屋を後にした。


階段を下りてリビングに戻ってくると、愛音の姿はなかった。


ベランダの窓から外を見ると、庭でスコップを使って穴を掘っている愛音の姿が見える。


何かを掘り当てた様子の愛音は、スコップを置き、土の上にしゃがみ込んで両手で穴を掘り始めた。


愛音が掘り起こしたのは、土をかぶった箱だった。


五十嵐も質問を終え、愛音は高信から大きめのビニール袋をもらって、その中に土で汚れた箱を入れた。


「ライト君が帰ったら、未編集の動画が欲しいからこの携帯に電話を掛けるか、私からの電話に出てもらえるよう伝えてもらえますか?」


五十嵐が最後にもう一度念を押すようにそう言うと、高信は本当に申し訳なさそうな表情を浮かべて小さく何度も頭を下げた。


「分かりました。必ず連絡させますから」


彩香は後部座席に座り、愛音から袋に入れられた箱を受け取って膝の上に置いた。


この中に猫の遺体が入っていると思うと、胸が痛い。


そっと表面を手のひらで撫でると、車は同時に走りだした。


ライトの家からの帰り道、いつものように愛音が運転し、助手席に五十嵐、後部座席に彩香が座った。


途中でリビングを抜け出して家の中を散策して歩いていた彩香に対し、五十嵐は振り返ることなく質問する。


「なんか疑わしいところはあったか?」


彩香も彩香で、捜査員でもないのに当たり前に見てきたことを語り出した。


「あの地下室…どっちかっていうとむろみたいだったけど、周辺の壁紙や床が動物に引っかかれたみたいになってて…あそこは怪しいかも。それに、動物の死体が見つかり始めたタイミングと、ライト君のお父さんが転勤から戻ったタイミングも気になるし」


「でも、以前は家で動物を飼ってたんだし、爪痕があってもおかしくないんじゃ?」


愛音が訊くと、彩香に変わって五十嵐が答えた。


「リビングも含め、他の部屋は壁紙がきれいだった。これまで放し飼いしてた事を考えると、父親が帰ってきてから壁紙を張り替えた可能性も高いだろう」


「そういえばリビングはきれいでしたね。廊下も。あの地下の廊下だけ張り替えなかったとか…ってないですかね?」


まだ愛音は彩香の推理を疑っているらしい。


五十嵐は呆れながらも愛音の相手をして答えた。


「節約とはいえあんな豪邸に住んでるんだ。あの狭い地下の廊下だけ張り替えないのは不自然だろ」


「まあ…それもそうですよね。豪邸だし」


愛音が彩香の言うことを一概に信用できないのは、あの家に動物の痕跡がないことと、匂いだ。動物特有の匂いがあの家の中ではしなかった。


その上、自宅で動物を虐殺していたとしたなら、父親にバレるに決まっている。今にも殺されようとしている犬や猫が黙っているはずがないのだから……。







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