神使の怒り 3-1





夜8時。


物音が聞こえて本を読む手を下ろしたライトは、携帯を手に取り、廊下の電気を点けた。


外から鳴き声が聞こえる。


「…ャァ……」


声にもなっていない小さな呻き。


ライトはすぐに携帯のカメラ機能を立ち上げた。


一階の廊下を歩いていると、リビングでテレビを見ていた父親が「おい、こんな時間にどこ行くんだ?」と、声を掛けてくる。


「どこも行かないよ。外でなんか声が聞こえるんだ」


父親はのそのそとリビングから出てくると、「どうせ野良猫だろ」と、答えたが、一緒に外まで出てきた。


サンダルを履き、庭を確認する。


草の茂った真っ暗な庭ははっきりと確認できなかったが、また小さなうめき声が別の場所から聞こえた。


「こっちじゃないか?」


父親が率先して柵を開け、道路に出た。


「うわ!」


何かに驚いた様子の父親が道路で尻餅をついて転んでいる。


「なによ、父さん。カメラ回ってるからって大袈裟だから」


ライトがそう言いながら父親に近付いていくと、父親が見ている方へ視線を向けた。


家の塀に寄り添うように、猫が横たわっている。


しかし、穏やかな状況ではない。おそらく元々は白い毛の猫のようだが、血液で身体全体が赤く染まっていた。


腹も胸も背中も足も、真っ赤な液体に染まり、身体中が震えている。


何より驚いたのは、両目も怪我を負っていた事だ。


開いているはずの目も、眼球が傷つけられて何も見えていないのだと思う。


「と…父さん、車!車出して!病院いかなきゃ!」


ライトの叫びに父親も慌てて立ち上がった。


家の中に駆け込み、上着を羽織ると、財布と車の鍵とバスタオルを一枚持って飛び出してきた。


「ライト、これでくるんで抱け。後部座席に乗れよ」


そう言ったが、ライトは慌てる父親とは裏腹に、呆然と地面に膝をついて猫を見下ろしていた。


「おい、ライト」


声を掛けてもライトは返事をしようとしない。


視線を猫に向けて父親も悟った。


「ダメだったか……」


父親もまた、その場にお尻をついて座り込んだ。


自分が無力に感じた瞬間だった―――。







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