君を殺す誰か~if~①

深穂 (のろのろ更新)

殺人鬼に告ぐ 1-1



山間の工事現場に悲鳴が響き渡ったのは、春を迎えた5月のことだった。


ひとり…またひとりと、砂利の路面に倒れていく。


口元から血を流し、目を大きく見開いた男。


その上に老婆が頭から血を流して倒れる。


悲鳴はやむことなく山中に響き渡った。


叫ぶのをやめた男が下唇を噛みしめ、近くに落ちていたスコップを手に取った。そのスコップを大きく振り上げ、何かに向かって走り出す。砂利を踏みしめ、よろけながら走っていく。


しかし、スコップは目標を捕らえる前に砂利の上に落ち、男の首は宙を舞った。


地面に転がる首を見た中年の女性が、涙を流しながら叫び声を大きくした。


次の瞬間、その女性の喉元に木製の棒が突き刺さった。


それは、先ほど男が持っていたスコップの柄の部分だ。


女性は声を失い、地面に倒れて痙攣し、その後動きを止めた。


人の群れは一掃した。


誰一人として立っている者はいない。


それどころか、息をしている者がいない。


惨殺死体に囲まれて、唯一生きていた血まみれの男は、腕についた血を舐めた。


『おーい。応答しろ。工事始まったのかぁ?』


どこからか間の抜けた声が聞こえてくる。


辺りを見回してみる。


学校のグラウンドほどの広さのさら地に無数の遺体が横たわり、そこを囲むように木々の茂った山がある。


さら地の端に白いテントが見えた。


男は声のする方へ…テントの方へと歩を進める。


『聞こえてんのか?応答しろー』


相変わらずとぼけた声がスピーカーから聞こえている。


どうやら無線機が設置されているようだ。


他にも図面や地図などが長テーブルの上に散乱している。


モニターや機材などもあちこちに点在していたが、モニターには横線が数本波打ち、画面全体は黒でまとまっていて、なんの機能も果たしていなかった。


血まみれの男はそれらに興味を示すことなく、背を向けようとした。


しかし、一瞬何かが動いた気配がして、視線をテント内に戻した。


長テーブルの下にピンクの布が見えた。スカートのようだった。


男はテント内に侵入し、その姿を確認する。


腰をかがめてテーブルの下を覗いてみると、小さな女の子が人形を抱きしめて座っていた。


男の姿を見た少女は首を傾げる。


「ケガしたの?だいじょうぶ?」


少女が血だらけの身体に触れようとしたのを、男はすっと身を引いてかわした。


少女はそんな男を恐れる事もせず、スカートのポケットから飴玉を取り出し、男に向かって差し出す。


「はい」と、手を突き出され、一瞬男は狼狽したが、その無の表情に押されてしまった。


突き出された手から飴を受け取ってしまったのだ。


それから男は逃げるようにテントを後にした。


死体の山を通り過ぎ、山中へと駆けていく。






少女はテーブルの下から這い出すと、辺りを見回した。


テントの向こうにあるのが死体であることに、彼女は随分と長い間気付かなかった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー