第655話 しんちょくほうこく
パソコンの魔法の処理速度アップと、黒本を初めとする資料の充実。ブレイクスルーだった2つの要素。
それは車の両輪のように、噛み合って、超巨大魔法陣の解析効率を上げてくれた。
他にも、2つの要素は、魔法の作成速度を一気に上げた。
結果的に、より優れたプログラム作成に繋がって……さらに効率が増す。
そんな感じでいいループができた。
これらがもたらす開発環境の向上に、サムソンは上機嫌だ。
「超巨大魔法陣だが、進捗を報告するぞ」
というわけで上機嫌なサムソンが皆を広間に集めて、途中経過を報告してくれることになった。
A4サイズの紙が配られる。
日々進展があって、最近は食事中に口頭での報告が多かったけれど、今日は本格的だ。
「3つめもわかったんスね」
「そうだ。皆の協力もあって、概略は掴めた。資料の最初を見てくれ」
超巨大魔法陣は、大量の魔法陣が重なった……積層魔法陣だ。
そして、それは3つの大きな塊に分けることができる。
3つのうち2つは、ウルクフラの手帳に設計図があって、そこから機能が把握できた。
ところが設計図には記載のない3つめの塊は、何を司るのか判明していなかった。
その3つめが分かったのか……。
「決め打ちの願い?」
サムソンの配ったA4の紙には、3つめの塊が持つ機能にそう説明があった。
「おさらいすると……だ。1つめの塊は、究極を超えた究極のメイン部分だ。2つめの塊は、超巨大魔法陣の起動と別の場所にある魔力を支配下に置く魔法。これは魔法の究極をアレンジしたものだ」
「で、最後が決め打ちの願い」
「そう。3つめの塊は、究極を超えた究極に何かの願いを送る部分。あらかじめ願いを暗号化しておくことで、魔力の節約を図ったと思われる部分だ」
「じゃあさ、あの地下にある超巨大魔法陣って、何か決まった願いを叶える魔法陣ってこと?」
「そういうことになる」
「では、その願いは……資料には書いてないように思います」
「暗号化……いや、データ化してあってわからない。でも解読は時間の問題だ。おそらく何かの願い事を処理しやすいように加工しているのだと思う」
「加工していたってのは?」
「3つめの塊は、1つめの塊がしている処理に割り込むように、願いをねじ込んでいるんだ。最初の塊は、願いを読み取り加工して、それから願いを叶える存在にデータとして渡す作りになっている」
なるほど。確かに決め打ちと呼ぶべき内容だ。
つまり、願いを読み取り加工するという行程を、前もってやっておいて、出来たデータを3つめの塊に持たせているわけか。
あらかじめ途中まで処理しておけば、最初の2工程分は処理が必要ないから魔力の節約ができる。
料理番組に例えると、事前に下ごしらえしたものがコレになりますって、取り出すやつだな。
「よくわかったな」
思わず賞賛の言葉がでる。3つめの塊は、めちゃくちゃな作りで読みづらかった。
手伝っていたオレには、まったく理解ができない内容だった。
設計図のとりまとめから、さほど日付が経っていないのに、ここまでこぎ着けたサムソンに脱帽だ。
「何かのデータを1つめの塊に送ってることは分かった。そして設計図から、送っているのは加工後の願いであると推測できた」
サムソンがキリッとした顔で断言する。
興味のある事柄で、集中している時の顔だ。よほど進捗が順調なのだろう。
「ところで、超巨大魔法陣は使えそう?」
「どうだろうな。俺はあのままの使用は止めるべきだと思うぞ」
「やっぱりバグがあるからですか?」
バグ。コンピュータープログラムにおける、欠陥の事だ。
超巨大魔法陣には、いくつかのバグがある。
もともと怪しい部分はいくつか見つけていた。
それが、ノアの魔力により処理速度が上がったパソコンの魔法で、超巨大魔法陣の動きを細かく追うことができるようになって、より詳細に判明した。
理論的には動かないつくり。文法上の誤り、出来ない事をやろうとしていたり、理由は様々だ。
「でも、動いていたんスよね?」
プレインが言う通りだ。
そもそも、超巨大魔法陣が動いていたからこそ、オレ達が召喚されたのだ。
動かないはずが無い。
「そうだな。だが、魔法陣はコンピュータープログラムとは違う、多少の間違いは意思の力でねじ伏せることが可能だ。それに、どんな効果があるのか、まだ分からない」
そりゃそうだな。何が起こるかわからない魔法を唱えたくない。
その効果だって、魔法は意志の力で、効果をねじ曲げることができる。
気合いでバグをねじ伏せて、超巨大魔法陣を動かした結果……予想外の事態になるのは困る。
「どちらにしても、動かすとしても3つめの塊が持つ役割を完全に解明してからだよな」
オレの言葉に、反対する意見は無かった。
サムソンが後少しだと言っているわけだし、焦ることもないだろう。
超巨大魔法陣についての報告が一区切りついた時、カガミが立ち上がる。
「では、私も報告がありますが……いいですか?」
オレ達を見回して、カガミがそう言った。
皆が軽く頷いて先を促す。
「こっちは以上で終わりだ。次はカガミ氏だな」
「では、私は魔法の究極についてです。それなりに進みましたが、あと一歩という部分で暗礁に乗り上げた状況なので、アイデアがあれば欲しいと思います」
そう言ってカガミが、説明を始める。
魔法の究極が抱える問題。送る過程で、データが欠損すること。
データを小さい塊にして、連続して送る事で欠損を大幅に減らせる。
魔法の究極で送る願いというのは、絵にも似た模様で形作られるという。
イメージとしては、絵のデータを送るのに似ているのだとか。
送るデータを小さくすることで欠損を減らせるというのは、ウルクフラも気付いていたそうだ。
そして、ウルクフラは荒い画像を複数回送るというアプローチをした。
薄い色を何度も重ね塗りすることで、最終的に望む絵を作ることにしたらしい。
他にも細かな工夫をしているらしく、カガミが検証したところ、彼女の感覚的な判断よりもよほど上手くいっているそうだ。
「でも、カガミはウルクフラのやり方では確実ではないと?」
彼女の口ぶりから、ウルクフラのやり方に限界を感じ取っているのがわかり、先を促す。
「えぇ。沢山の工夫を凝らしているんですが、複雑過ぎると思っています。だから、もっとシンプルなアプローチを考えています」
「シンプルなアプローチ?」
「パズルのピースみたいに、絵を小さな部品に分解して、次々送る方式です。小さくすればするほど、欠損する確率は減ります。だから、今はどこまで小さくできるかを検証しています」
「めちゃめちゃ小さいピースにすれば、大丈夫って感じ?」
「残念ながら、失敗ゼロというわけには……」
「つまり、カガミ氏は、ゼロに近づけるアイデアが欲しいってこと?」
「そうです。あと少しだと思うんです」
データの欠損を無くすか。
なんとなくぼんやりと解決策が出かかっている。
きっと元の世界でも、似たような経験があるのだろう。
元の世界での仕事から長く離れすぎて勘が鈍っているのかな。
解決策が出ないまま時間がしばらくすぎた。
少しだけ無言の時間が続いていた時、ガチャリと音を立てて広間の扉が開いた。
「お手紙が届いたよ」
ノアが手紙を手に広間へとやってくる。
それは封蝋された手紙だった。
「大事な手紙みたいだね?」
「あのね、領主様のトーク鳥が持ってきたの」
領主から、手紙?
ロクな予感がしない。どう考えても面倒事だろう。
「まー、このまま考えていても埒があかない。個々で考えて、ネタを思いついたら動こう」
特にいいアイデアも出ないまま進捗報告を終えて、手紙に目を通すことにした。
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