第568話 はんせいしつ
砂煙を切り裂くように差し込む光。
地下にいたオレには眩し過ぎる明かりに照らされて、兵士に捕まった。
「対応を検討する……という事だ。一応、ノアサリーナ様へは連絡済みだ」
それから、そんな言葉と共に入れられた反省室。
そこは、出入り口は鉄製の柵に覆われた、いわゆる牢屋だった。
とはいっても牢屋の割に不自由がない。
牢屋には地下へと続く階段があった。
その先には絨毯が敷いてある快適な地下室。2段ベッドは両方ともフカフカ。備えつけの机に椅子も年季が入った立派なものだ。
さらに、地下室にあったのは設備だけではなかった。教授の悪口や似顔絵など、落書きが壁一面にあった。これは、眺めるだけでも楽しめ、暇つぶしになった。
おかげで、反省室に入ることになっても楽な気分だ。
遊び心の詰まった地下室の持つ気楽な雰囲気がとてもいい。
「結構面白いよ。ほら、あの……妙に上手い先生の似顔とかあってさ」
「そうですか。あの、心配してたんですが……」
翌日、担当教授から話を聞き心配して駆けつけたというカガミに、反省室生活を自慢したくらいだ。
「心配してたぞ。特に、ノアちゃんが」
もっとも、気楽なのはオレだけだったようだ。
ノアからの手紙を持参していたサムソンの言葉には、申し訳ない気持ちで一杯になった。
そうだよな。
ここ数日、皆がバラバラだと言って寂しそうだったからな……。
帰ったら、謝ろう。
ノアの手紙には、今日あった事や、勉強の事が書いてあった。プレインがノームと協力して何かの練習をしているらしい。
「ごめん。大丈夫だって伝えておいて」
ノアからの手紙に返事を書いて、サムソンに渡す。
それからも、食事は1日2回。加えて、サムソンとカガミからカロメーの差し入れがあった。
2人は、オレのことは誰にも言わないようにとだけ伝えられたという。
そんな反省室で日々を過ごした。
それから3日。ちょうど飽きてきた頃、いきなり外が慌ただしくなった。
「これから、大教授による尋問を行います。失礼の無いように」
牢屋の鍵がガチャリと開いて、一人の兵士がやってきて、そう言った。
「大教授ですか?」
「左様です。すでに3人ともこちらに来ております。立ったままお待ちください」
3人の大教授による尋問か。
尋問……。
いやな響きだな。さて、どうしたものかな。
なぜ、あの場所にいた……なんてことを聞かれるのだろう。
ミランダにそそのかされてってのは、言い訳として辛いかな。あいつは、兵士に見つかる前に逃げやがったしな。
こんなことなら、言い訳の1つでも考えておくべきだった。
よくよく考えれば、事情聴取くらいはされて当然だよなぁ。
出来ることなら、3日前に戻りたい。
それから3日前のオレに、しっかり考えろと一喝しておきたい。
オレがここ数日の過ごし方を後悔しているうちに、兵士は去って行った。
それと入れ替わりに、ぞろぞろとローブ姿の3人がやってくる。
3人ともただ者ではない雰囲気を醸し出している。
あれが、先ほど兵士が言っていた大教授なのだろう。
「んまっ、なんですか、これは。落書きだらけではございませんか!」
うち一人が、部屋に入るなり大声をあげた。
つばの広い三角帽子に、ローブ姿の、いかにも魔法使いといった風貌の女性だ。
「いや……まぁ、そうですが。あのっ、コウオル先生……それは後回しにして……ですね」
ひとりキンキン声で怒る彼女を、気の弱そうな男がなだめる。
茶色い髪が、申し訳程度に頭に残った男だ。右手にピンと張った鎖を模した杖を、左手には真っ白い剣を持っている。白い剣は……最近見たことがある。王剣だ。王様の権力を象徴する剣で、魔法の制限などをコントロールする力がある代物だ。
「左様。左様。では、とりあえず、この場を封鎖します」
そして、最後の一人がそう言って、何やら呟く。
坊主頭に、ピンと張った口髭が特徴的なお爺さんだ。
右手に大きな水晶を持っている。
黒々とした髭は、染めているのかな。
オレが彼の髭について考えていると、あたりの景色がグニャリと歪んだ。
気がつくと、あたりは書斎のような場所に変わっていた。
壁には立派な本棚。
大教授とオレの間には、立派なテーブル。その上には、湯気のたつポットと、コップ。
少し離れた場所には、虎が2匹。大きな窓は開け放たれて、青空が見えた。
「それでは、始めましょうか。まずは、自己紹介から。私は、このスプリキト魔法大学を預かる大教授の一人……ビントルトンと申します。本日は、リーダ君にいくつか質問があって参りました。偽りはすぐに露見し、真実は幸運をもたらします。魔法使いとしての稔侍を胸に、よき時間を過ごしましょう」
黒髭の老人ビントルトンは、水晶をテーブルに置いて、そう名乗った。
それから、トポトポとポットからコップにお茶を注ぐ。
オレの分も注いでくれた。
「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
向こうがフレンドリーな態度だと気が楽だ。
それにしても、凄いな。
風景が一瞬にして変わるとは。
ザ・魔法って感じだ。
そういえば、空間を封鎖するとか言っていたな。
あの水晶が魔導具で、その効果かもしれない。
いや……違うか。魔法だろうな。
王剣を持っている人がいるのだ。この景色を変えた魔法を使うために、王剣で魔法の制限を一時的に緩和したのだろう。
そう考えると、わざわざ王剣を持ち込んだ理由に合う。
「あのっ、何か?」
ふと目のあった髪の薄い男が、神経質そうな声で聞いてきた。
「いえ、その王剣で魔法の制限を一時解除したのかと思いまして……」
「これは、これは。アットウト先生」
「迂闊でございました」
オレの言葉に、ビントルトンがペシリと額を叩き、髪の薄いアットウトに笑いかけた。
一方のアットウトは驚いた表情で王剣を投げ捨てると席に着いた。
王剣は、捨てたわけではないようだ。手から離れるとすぐに消えた。
ああやって、消すのか。
「雑談は止めにして、サッサと始めてください。時間の無駄ですわ」
和やかな雰囲気の中、一人カリカリと怒っている人もいる。
油断大敵。慎重に話を進めよう。
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