第511話 ゆっくりできない
一休みする前に、バルカンの所へと行くことにした。
屋敷に戻ってすぐに、チッキーが家畜の元へ駆けて行ったのを見て思ったのだ。
家畜の世話をお願いしていたバルカンには、お礼を言っておこうと。
休むのは後回し、帰ってきた連絡を優先する。
それに、情報収集も必要だ。バルカンが何か知っていればいいと思う。
さっそく温泉のある湯治場へ、屋敷裏にあるロープウエイを使い向かう。
「隠れ家亭だっけ?」
「バルカンの宿?」
「そうそう。でもさ、隠れ家って感じしないよね。お茶畑を併設してるしさ」
やり手だよな。バルカン。
「髭? あー、あれだ、伸ばさないと、なめられちまうんだ」
久しぶりに会ったバルカンは、髭を蓄えて少しだけ貫禄が出ていた。
ついでにと、温泉宿で話を聞く。
お茶の栽培、そして温泉の経営、それからキンダッタ達のお世話。
色々と仕事が山積みで大変だと言う。
「そっか大変だな」
聞いていると、相当忙しいようだ。
確かに話をしている側から、入れ替わり立ち替わりバルカンの判断を聞きに職員がやってくる。
忙しい中、悪いとは思いつつも、ロープウェイの事も聞いてみることにした。
「あの……ロープウェイが増えてるんだけど。なんだよ、あれ」
「しょうがないだろ。レオパテラ獣王国って言えば、南方でも有数の大国って言うじゃないか。そんな大国の公爵令嬢だぞ。断れるわけないだろう」
「……ですよね」
バルカンが言うには、領主から公爵令嬢の温泉使用に関する対応を求められたらしい。
そう言われては、バルカンの立場で断れるはずがない。
「いつでもご連絡ください。連絡いただければ、調整し、準備しますと言ったさ。それから、瞬く間だったぜ。ロープウェイだっけか……あれが作られたのは……」
そして遠い目をしてバルカンが言った。
「本当に、好き勝手してるな」
「ところで、リーダ。領主様から、急ぎお城に来るようにと、伝言があったぜ」
「バルカンの所にもあったのか」
「あぁ。使いの人間がきて、ノアサリーナ様にとって良い話だから、必ず伝えろってな。で、行ったのか?」
「いや。まだ、お城には行ってない」
バルカンの所にも、領主の伝言はあったのか。
首をはねるではなくて、良い話?
うーん。
本当に、一体何があったのだろうか。
心当たりがない。
「ところでバルカンが、その伝言を聞いたのはいつなんスか?」
「つい最近だな」
最近か。やはり、オレ達が飛行島で戻ってくることを把握しているようなタイミングだな。
陸路で一年近くかかった道のりだ。最後に手紙を送ってから、何ヶ月も経っているわけではない。
「それにしても、戻ってきてくれて助かったぜ」
しみじみと、バルカンが言った。
心底安心した様子に、まだ何かあるのかと不安になる。
「何かあるのか?」
「いや、実は……屋敷の家畜なんだが、世話が辛くなってきてな」
「家畜が?」
「あぁ、あの公爵令嬢様に、温泉とお茶畑……人を増やしてはいるんだが、手一杯ということだ」
「ほとんど、オレ達がらみだな」
サムソンが小声で呟いたのが聞こえた。
確かに、申し訳なさすぎる。
いままでのお礼をいって、今日からは家畜の世話をこちらでやると伝える。
「どうだった?」
バルカンと話を終えて、彼の奥さんであるデッティリアと話をしていたカガミ達と合流する。
「家畜の世話を、今日からこっちでやる事になったよ」
「がんばるでち」
「そうだね、チッキー、お願い。あと、オレに城まで来るように伝言があったってさ」
「もう行くしかないっスね」
「勇気をだして謝れば、許してくれるって」
ミズキが軽い調子で言う。
「オレは何もしていない」
「でも、リーダの首はねるなんて言うくらいだからな。お前に関係あると思うぞ」
「どうしよう……リーダ」
最高に他人事な同僚達にくらべ、ノアは心配顔だ。
あんまり何時までもあやふやな状態はまずいよな。
帰ってきた日、のんびり温泉に浸かった後、ぐっすり眠る。
一眠りしたら良い考え思い浮かぶかなと期待してだ。
だが、何にも思い浮かばなかった。
むしろ、このままゴロゴロしたくなっただけだ。
「先送り、先送りは不味いと思うんです」
そうだよな。
カガミの言う通りだ。
「しょうがないか」
決心しお城へと向かうことにした。
メンバーはノアとオレ。そして万が一の事を考えて、子犬のハロルドにはノアのバッグに潜んでもらう。少しばかりバッグはパンパンだが、大丈夫だろう。
加えて同僚達にはギリアの町に待機してもらう。
いざとなったら、とんずらだ。
強行突破で、ギリアから逃げる。
準備が終わり、警戒しての登城。
「長旅から戻られたのですね」
だが、ビクビクしながらお城に行ってみると、予想外の展開が待っていた。
城の兵士達は、オレを見てものんびりしたもの。
「吟遊詩人の歌を聴きましたよ」
そんな気安い言葉まじりの案内をしてくれた。
執務室で出迎えてくれたラングゲレイグも、多少は緊張した面持ちだが、普通だ。
「褒美ですか?」
「そうだ。リーダよ。そして、リーダの主、ノアサリーナ。其方達に、王よりお褒めの言葉と褒美が賜られる。直々にな」
そして、ラングゲレイグの口から出たのは、王からの褒美という言葉だった。
以前に、参加したシナリオコンテスト。
その最優秀賞に選ばれたのだ。
元の世界からネタをパクって用意した原稿が、最優秀賞とは予想外。
だが、ビッグニュースだ。
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