第487話 カガミおねえちゃんのけつい
結局のところ、オレは泣いているカガミに何も言えなかった。
「もう……大丈夫です。ごめんなさい、わがままばかりで……」
「お互い様だ」
かろうじて口にできたのは「お互い様」の一言。
ただ、その一言だけ。それだけを言って部屋を出た。
それから数日が過ぎた。
「ごちそうさま」
食事を取ったカガミがすぐに自室に引きこもる。
あの舞踏会の手紙を受け取った日以降、カガミは部屋に引きこもることが増えた。
何をやっているのか大体見当がつく。
ナセルディオへの報復のために使う魔法陣の作成、後は黒死の輪を作ること。
「どうするんだ」
サムソンが広間の扉を見て、オレに問いかける。
どうするのか。
「そうだな、ナセルディオの居場所を探ろう」
「あいつのスか?」
「カガミの舞踏会行きについては……諦めるよう説得を続ける」
「うん」
ミズキが力なく頷く。
「だからといって、カガミの気持ちがわからないでもない。だから、舞踏会に行かずに、報復できる方法を考えたい」
なんだかんだと言って、ここにいる全員が大なり小なりナセルディオにムカついているのだ。
仕返ししたいというカガミの気持ちは理解できる。
そうであれば、一応の検討をしてもいいとは思う。
カガミ1人には任せない。
だから、安全で、なおかつ全員で取り掛かれる方法があれば、検討に値する。
「対案を示すのか?」
サムソンの言葉に軽く頷く。
カガミは頑固だからな、諦めろと言うだけでは納得しないだろう。
「ナセルディオには、魅了がある。カガミやミズキとは相性が悪い。だから、カガミとミズキを除いた人間が、ナセルディオに近づき、魔法陣を貼り付ける方法を探ろうかと思う」
「ボク達がスか?」
「一応、ましな選択だと思う」
「そりゃそうだが」
「だからナセルディオの居場所を探る。そこから、ナセルディオに近づく方法を検討する。場合によっては、ナセルディオの居所に忍び込む可能性があるから、計画を立てる」
「それでも、うまくいきそうになかったら、どうするんスか?」
「その時にはカガミに、ありのまま話すよ。全部諦めてもらってギリアに帰る」
「うん。それがいいよね」
それからナセルディオの居場所を探し始めた。
皆でアイデアを出し合う。
情報収集は、サイルマーヤとラテイフ達を頼る。他には酒場などでの聞き込みだ。
噂程度でも、分かればいいだろうという考えだ。
ミズキとプレインが、町へと変装の魔法を使って潜り込む。
「必要になりそうな魔導具を、適当に作っておくぞ」
「念の為、魔法の剪定ばさみも……作っておくか。あと、人手が必要だったら言ってくれ」
サムソンは、何処かに忍び込むことになった場合を考え、使えそうな魔法や魔導具をあたることになった。
加えて、今後の予定をリスティネルやシューヌピアに話をする。
「私も何かお手伝いすることがあれば……」
「ふむ。良いのではないか。よかろう。私もしばらく手伝ってやろう」
リスティネルとシューヌピアも前向きだ。一緒に手伝ってくれることになった。
「おいら達も手伝います」
「そうだな。ピッキー達には、この飛行島を過ごしやすくすることを優先してほしい」
「頑張ります!」
とりあえずの方針が決まる。
舞踏会には行かない。ナセルディオにはカガミが作っている魔方陣を喰らわせる。
そのための行動が始まる。
「ナセルディオは、帝都へ戻ったらしいっスよ」
「そうなのか」
「イスミダルさんのお父さんが、ナセルディオのお土産にしたいという貴族からの注文で、特注のお菓子を作ったそうっス」
ナセルディオの居場所の情報は次々と集まる。
「帝都の、アカツタ宮でしょうねぇ」
サイルマーヤが言うには、帝都には皇子それぞれ専用の住まいがあるそうだ。
ナセルディオはそのうち一つ、アカツタ宮にいるのではないかという。
「絶対ではないですけどねぇ」
ただし、あくまで憶測らしい。
帝都に行って情報収集が必要だな。
そして、確実な居場所がわかったとしても、懸案事項はなくならない。
「正々堂々と帝都へ乗り込むのはまずいと思うぞ」
サムソンの一言。
ナセルディオを目当てに帝都に行くのだが、オレ達が帝都入りしたことが分かると、逆に警戒されてしまうのではないかということだ。
確かに言うことは一理ある。
オレ達が帝都にいることは知られないまま、奴に近づくのが最善だ。
それも考えないといけないな。
加えて、サムソンが見つけ出した、侵入用の魔法をみんなで自分の手帳に書き写す。
さらに、秘密裏に侵入するための魔道具の制作に取り掛かる。
空から忍び込むことも考え、気球を黒く塗る。
ギリアの屋敷にあった本から、防空や侵入者排除の魔導具に関する知識を読み、対策を考える。
こうした対策をコツコツと立て、日々を過ごした。
こうやってみると、時間はかかるが、なんとかなりそうだ。
「でも……ナセルディオが何処にいるのか、正確な場所は分からないんですよね?」
ただし、カガミの説得はうまくいかない。
「わからない。だけど、時間をかければなんとかなるさ」
「舞踏会で、あいつに会う方が確実だと思います。思いません?」
「確実かもしれないが、危険すぎる。1人では入れてくれないだろ? ノアも同行することになる」
「それは……その、大丈夫です」
「大丈夫?」
後ろめたさを感じているのが、カガミはノアを同行させることについては罪悪感を抱いている。
それは分かっているから、少々卑怯だが、ノアをネタに引き留めようとした。
「対策、考えています」
だが、その路線での説得は不調に終わる。
「対策?」
「幻術で、ノアちゃんがいるように見せかけます」
「そんな魔法があるのか?」
「作りました」
力なく笑うカガミに、逆に不安が増す。
ノアと一緒に行かないってことは、カガミは1人で乗り込むつもりなのか。
確かに、そうは言っていたが……専用の魔法まで作っていたとなると、現実味が増す。
1人で行けるとなったら、場合によってはカガミは、ここを抜け出して1人で舞踏会に行く可能性も出てくる。
「誰が何と言おうと、オレはカガミ1人では行かせない」
「えぇ」
宣言するように言ったオレに対し、カガミは静かに微笑むだけだった。
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