第437話 まおうのふっかつ

 この世界には6体の魔王と魔神がいる。

 魔神と6体の魔王は、全て眠りについていて、近々復活するらしい。

 新たに生まれる7体目の魔王と一緒に。

 酒場の吟遊詩人から聞いたことがあり、神官達も同様に言っていた。

 国の首脳などは、魔神の復活が近日中となれば、それを把握できるという。

 だから、遠くない未来に魔神は復活するが、まだその時期ではないと断言できるそうだ。

 その予測はとても正確で、魔神がこの地に現れてから、一度も予想外の時期には復活することがなかった。

 魔王の復活や誕生は、魔神の復活と同時。

 例外はない……はずだった。


「第6魔王デュデュディアが復活したとのことです!」


 ユテレシアからもたらされた報告。

 7度目の魔神復活を前にして、魔王のみが復活した。

 いままでに無い状況。

 魔神復活と同時ではなく、単独での復活。

 それから毎日のように続報が届いた。


「魔王デュデュディアは、ケルワテにある魔神の柱にて復活したようです」

「かねてより聖地ケルワテは対策を立てております。それに、勇者の軍も向かった模様」


 ここから遙か南で復活した魔王の討伐には、勇者の軍が行くらしい。

 遠く離れた場所での出来事ということで、聖地タイアトラープに住む人々は安堵していた。

 だが、警戒を緩めない人もいる。


「あれ、霧が……」

「霧がまとまって、巨人?」

「あぁ、あれはウォータージャイアント。聖地タイアトラープを守り、魔神の柱を見つめる存在です」


 神殿は警戒をゆるめない。

 おそらく安堵し楽観的なのは一般の人だけで、神殿やお偉いさんは違うのだろう。

 このような状況でも、オレ達は仕事を粛々と進める。

 行進参加者の意向調査。

 マークシートを配布して、回収。

 それをパソコンの魔法に取り込んで、集計。

 そんなことをしていると、あっという間に月日は経った。

 しかも、そろそろ芽吹きが近い……つまりもうすぐ春だという。

 だが、イブーリサウトはまだ来ない。

 もっとも、まだまだ意向調査が終わっていないので、来ないのは助かる。

 どうやら魔王復活という報告をうけて、途中の町で部隊は動いていないようだ。


「それにしても、いつの間にか年を越していたんだな」


 こっちの人は、収穫祭は祝うけれど新年はほとんど祝わないので、いつ新年を迎えたかわかりにくい。


「今年はほとんど雪が降らなかったっス」

「帝国で雪が積もらないことなんて、いままでなかったことだと聞きました」

「雪はともかくさ。お菓子の祭典には間に合わないってことだよね」

「しょうがない。いきなり妙なことになったんだ。行進しつつ仕事は無理だったからな」


 あとはイブーリサウトという奴が来るまでに、なんとか間に合わせるだけだ。


「領地が心配なのです」


 そんな中、諸侯から派遣された騎士や戦士団のいくつかが、帰郷することを申し出てきた。

 魔王が復活し、領地が心配になってきたという。


「では、皆様ありがとうございます。無事、帰郷することを願っています」

「ノアサリーナ様。こちらのわがままをお聞き入れいただきありがとうございます」


 引き留める理由はないので、気持ちよく送り出すことにした。

 ついでに、思いつきを打診してみる。


「いえ、ところでお願いがあるのです」

「お願い……ですか?」

「リーダ。説明を」

「はい。ノアサリーナ様のお願いというのは、あなた方の領地に住んでいた者、帰り道に故郷のある者がいます。その者達を守り、無事に故郷へと戻れるよう助けて欲しいのです」

「かしこまりました。では、希望する者を募り、送り届けましょう」

「それには及びません。すでに把握しています。それから、旅の間に必要となる食料等もお渡ししましょう」


 せっかくなのでと、帰郷を願う人のうち、今回帰郷するグループの通り道にかかる人の護衛をお願いした。

 ダメ元だったが、即答でOKをもらえた。

 加えて物資の提供と、すでに希望者は把握していることを伝え、リストを渡すと、めちゃくちゃ驚かれた。

 しばらく声を出せない人がいたほどだ。

 マークシートを書いてもらったのだから、そのくらいすぐに分かりそうなものなのに。

 もしかすると、この世界におけるリアクション芸だったのかもしれない。

 リストを受け取った人、芝居がかっていたしな。

 混迷を深める世界情勢とは違い、オレ達は順調だ。

 民衆からのマークシートの回収に、ほとんど時間が掛からなかったことは、嬉しい誤算だった。

 ほんの数日で、行進に参加していたうち一般の人は全員が回答をくれた。

 なかなか返してくれなかった人は、お守りにしたいという人だけだった。

 そういう人には、後日マークシートを返却することにする。

 諸侯から派遣された人達は、大部分が故郷に相談してから回答するということで保留中だ。

 というわけで、回答をくれた人からリストを作成する。

 そうやって作ったリストを渡し、帰郷を願った人達が集められる。


「我らは誤解しておりました。ノアサリーナ様、お元気で」

「私達にできることがあればいつでもお申し付けください」


 諸侯から派遣された騎士数人が代表として、お別れの言葉をノアにかける。

 それから、大神殿前の広場で、ちょっとした送別会のような催しをした。

 特に企画したわけではないが、なりゆきでそうなった。

 急ごしらえの船にのり、一団が去って行く。

 大神殿を取り囲む湖のような水路を進む一団。


「いっちゃった」

「そうだね」

「あのね、皆ありがとうって」

「いっぱいカロメー作ったしね、ラーメンも」

「うん」


 少しだけ笑った後、ノアは去りゆく船をじっと見ていた。

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