第407話 閑話 ふしぎな出来事(ノア視点)

「あのね、リーダと一緒だったの」


 呪われていて良かったと少しだけ思った。

 だって、リーダと一緒だったから。


「変わってるわねぇ。ノアはぁ」


 ロンロと小声でおしゃべりしていたはずなのに。

 気がつくと、ギリアの屋敷にいた。

 広い広いお庭。

 お風呂にはいって着替えて、ぽかぽかした体のまま皆の楽しそうな姿をみていたはずなのに。

 私は、1人ギリアのお屋敷にいた。

 誰も居ないお庭。

 草がボーボーのお庭。

 あれ?

 後には、ボロボロのお屋敷があった。

 あれ?

 リーダは?

 悪い思いつきが頭の中をグルグルする。

 全部……夢?


「リーダ!」


 たまらず大声を出す。

 すると、ふわりと体が浮き上がって、私の体はふわふわした物にボヨンと落ちた。


「ワッショイ」


 バシャリと体が水に濡れる。

 振り返るとリーダがいた。びしょ濡れのリーダが。

 私は茶釜に乗っていた。

 茶釜に乗ったリーダが私を抱え上げて乗せてくれたのだ。


「リーダ!」

「じゃ、次はノアの番だ」


 リーダに桶を渡される。


「私の番?」

「ノアは、ずっと見ていただけだったろ?」


 リーダがワッショイとかっこよかった日。

 ピッキー達は、代わる代わるワッショイしていたが、私は見ているだけだった。

 呪われた私が神具を使ったら悪いことが起こると思ったから。

 だから、私は見ていただけだった。


「うん!」


 大きく頷いて、タイウァス神の神具を受け取った。

 きっとリーダが助けてくれると思ったから。


「よし、がんばろう!」

「うん! ワッショイ!」


 それから、ワッショイと一生懸命大きな声を出して、水を回りにかけて進んだ。


「がんばれ! ノアノア!」

「その調子だぞ」


 いつもみたいに、皆が笑顔で応援してくれた。


「ノアちゃん。かっこいいと思います」

「アンコールっスよ」


 それから、茶釜はどんどんスピードを上げて、屋敷を飛び出た。

 森に入ったら、キラキラと光って草原に変わった。


「ノア!」


 サエンティにパエンティが手を振っていた。


「ワッショイ!」


 大きな声で言って、桶を振るう。

 2人のお父さんのラッレノーさんに、おじいさん達家族もいっぱいいた。

 全員にお水をかける。

 すると、草原はフワリと静かな風が吹いて森に戻った。

 森を抜け、街道に出る。


「お嬢様に、リーダじゃねーか」


 バルカンさんがいた。

 デッティリアさんも。

 プリネイシアさんに、クローヴィスも。


「ワッショイ!」


 皆に水をかけて、さらに茶釜は進んで町にはいった。

 大工さん達が皆いた。先頭のレーハフさんに、レーハフさんの奥さん。

 クストンさんに、ほかにもいっぱい。マリーベルさん達一座の人もいる。

 それに、アンクホルタさんに、ヒューレイストさん。

 ウートカルデさんは、なぜかしゃがみ込んで箱を開けようとしていた。


「せっかくだ皆にもワッショイだ!」

「うん! ワッショイ!」


 それから、城に行って、領主様に、ヘイネル様。それにイザベラ様も。

 エレクさん。

 商業ギルドのおじさん。

 皆にワッショイした。


「そろそろ戻るか」

「うん!」


 戻る途中の森で、お姉ちゃんにヌネフがいたのでワッショイする。

 それに、シューヌピアさんに、カスピタータさん。

 長老様にリスティネル様。

 トゥンヘルさんもいた。

 皆、皆。

 びしょ濡れになって笑っていた。

 私も、リーダも。


「お嬢様ー!」


 屋敷にもどると、お庭はピカピカになっていた。屋敷も。

 両手を挙げて走って迎えてくれたピッキーにトッキーに、チッキー。

 3人にもワッショイする。


「到着」

「うん!」


 あれ?

 リーダじゃない声がしたので、後を振り返る。

 ママ?

 ママ!

 振り返ると、そこにいたのはリーダじゃなかった。

 ママがいた。

 びっくりした私をママはギュッと抱きしめてくれた。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 ママは優しい声で言った。

 そうか。

 夢なんだ。

 不思議な出来事。

 私は夢だと気がついてしまった。

 でも、夢でも嬉しかった。

 目が覚めたらリーダに……。

 ううん。

 目が覚めたらカロメーを作って、おはようって言おう。


「あ。ハロルドにワッショイしていないね、ノア」


 大きく頷いた私にママの声が聞こえた。


「うん!」


 ママに大きく頷いて、側を走っていた子犬のハロルドにワッショイして、屋敷に戻った。

 夢の中で、ママと手を繋いで。

 ギリアのお屋敷に戻った。

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