第252話 どいつもこいつも
「デルコゼを出していただけますか?」
イアメスの前に進んだカガミは微笑んで手を差し出した。
問い詰められたイアメスはしばらく無言で口をパクパクさせていた。
そしてズボンのポケットからどぎついピンク色の石を取り出した。デルコゼだ。
やはり、イアメスが先ほどの怪鳥アレイアチを操っていたのだ。
そして魔物を操る魔石であるデルコゼを使うということは、おそらく彼は金獅子なのだろう。
彼が何のためにオレ達に近づいたのかは分からない。
だが、悪意を持っているというヌネフの言葉は正しかった。
「これは、その……」
イアメスが口をもごもごとさせ何かを言おうとする。ベストの端を堅くつかんだ手がぷるぷると震えている。
「えぇえぇ。わかっています。私も経験がありますから」
そんな彼に対してカガミが言った台詞に皆が言葉を失う。
「え? 経験?」
皆の意見を代表するかのようにミズキが声を上げる。
「営業ですよ」
ミズキに、カガミが微笑み言葉を返す。
ますます分からない。営業?
そのままカガミはイアメスに向き直り言葉を続ける。
「営業ノルマが厳しかったんでしょう。えぇ、分かりますとも、私も昔ほんの少しだけ営業をやっていたことがあるんです」
何を言っているのだ?
「ちょっとカガミ、言ってる意味が……」
オレの言葉など聞いていないかのように、カガミはさらにイアメスに話を続ける。諭すように。
「でもいいですか、イアメス様。デルコゼは毒でもあるのです。体に悪いんです。そんなことまでして営業成績を上げたところで、後悔するだけなんですよ」
「あっ、はい」
確実にイアメスは何の事を言われているのかさっぱりわかっていないに違いない。
でも、話を合わせてこの状況を乗り切ることにしたようだ。
そしてオレもよくわかっていない。
「カガミ氏、一体どういうこと?」
「つまりイアメス様は営業成績を上げるために、このようなでっち上げを行ったということです。商家の出という言葉でピンときました。つまり、危険から私達の身を守れますということで、さらに案内賃のつり上げを図った。もしくは、継続しての案内を提案しようとした……そうですよね?」
ドヤ顔でカガミが言う。
「そう、そうですゾ」
イアメスは即座にその意見を肯定する。
なに、この茶番。
ミズキはその言葉を聞いて、そそくさとオレの近くに寄ってきた。
「リーダ。どうしよう。カガミがリーダみたいなことを言ってる」
「なんだと?」
「ほら、何か訳のわからないこと言ってるじゃん」
その言い方だと、まるでオレがいつも訳の分からないことを言っているようではないか。本当にコイツ、口が悪いな。
「いやミズキ、ちょっと待てよ。オレは何時もわかりやすく伝わるように発言しているだろ」
確かに、カガミが言っていることはわからない。だが、それとオレの言動を一緒にするというのは如何なものか。
はっとしたような顔で、ミズキがオレを見た。
「そうだよね。なかなかわかんないよね」
そう一言だけ言うとちょこちょこと彼女は離れていった。
まったく。
「さて、これからどうするかだな」
「カガミ姉さんはどうするつもりなんスか?」
「まぁ、今回は不問にしましょう。イアメス様も、今の報酬のままで我慢してください。それはともかく、あと少し、これからもよろしくお願いします。イアメス様」
イアメスは何度も何度もオレ達の方を振り返り見た後、近くに立っていた馬に跨がった。
「では、皆様申し訳ありませんでした。そうです、カガミ様の言われる通りなのですゾ。では、東へ進むことを再開しましょうゾ」
彼はそう言ってパカパカとゆっくり歩みを再開した。
その背中には、なんともいえない哀愁が漂っていた。
「あやつ以外に、誰の気配を感じなかったでござる」
小屋に入ると、待ち構えていたようにハロルドが言った。
オレ達が怪鳥アレイアチと戦っているときに、ノアがハロルドの呪いを解除したらしい。
その後、オレ達と一緒にアレイアチと戦うつもりだったが、すぐにオレ達が対処したのをみて、ハロルドは表に出ることをやめて、周りの様子に注意を払うことにしたそうだ。
「結局、彼は金獅子なのかな?」
「おそらく。だが、狙いが分からないでござる。他の金獅子が潜んでいるのかと思ったが、そういうわけでもなさそうでござる」
「これから、合流するかもしれないな」
「そうでござるな。連絡を取らぬように、注意しておかねばならぬであろう。そうでござるな。ちと、釘を刺しておくでござる」
そう言って、ハロルドは外に出て、すぐに戻ってきた。
「終わったのか?」
「うむ。夜中はこそこそ出歩かないようにと言っておいたでござる」
「そっか。でも、やっぱり金獅子とか、そんなのに狙われる覚えがないんだよな」
「何にせよ、情報が少なすぎでござるな」
「カガミお姉ちゃん、ちゃんと知りたいから、助けたのかな」
ノアがとても前向きな意見を出した。
個人的には、絶対に違うと思うが、そういう見方もできるのか。
確かに結果だけ見れば、イアメスを監視しつつ、なおかつ案内役として仕事してもらえるわけで結果オーライだよな。もっとも、きちんと案内してくれるという条件付きではあるが……。
「さすが姫様。確かに、そうでござるな。はっきりとは理解できなかったが、あの時の皆の反応、まるでリーダが妙ちくりんな事を言い出した時とそっくりでござった」
なんだと?
「みんなびっくりしてたね」
「うむ。きっとカガミ殿も本心ではなかったのかもしれぬ。だが、目的のため、いつものリーダのように珍妙な理屈を言ったのかもしれぬでござるな」
「まったく、どいつもこいつも、オレという人間を誤解していると思うよ」
「ドイツモコイツモ、困ったね」
十中八九、前向きに捉えているノアの笑顔に、何も言えずその日は過ぎた。
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