第94話 だいじなめいが

「愚民どもめが、この俺様に触れるな汚らわしい」


 ヘイネルさんへトーク鳥を飛ばしたら、後日連絡すると返答があった。

 後日というから、その日は何もないとおもっていたら、夕暮れ時にトーク鳥が飛んできた。

 チッキーが受け取ろうとしたら威嚇されたので、オレが受け取ることにして、手紙入れから手紙を取り出す。


「も、申し訳ありません。お代官様」

「持ってる手紙入れも立派っスね」

「ぐえっへっへ。よいではないか。よいではないか」


 目つきの悪いトーク鳥だ。首には金ぴかに光るネックレスのようにチャラチャラと装飾がついた首輪をしている。飛んでいる途中で外れたりしないのだろうか。

 高そうに見えるだけに紛失しないかと心配になる。もっとも、他人のトーク鳥なので、どうでもいいことだが。


「変なアテレコしてないで、早く手紙受け取れよ」


 あまりにも目つき悪いし、偉そうに見えたのでアテレコしつつトーク鳥から手紙を取り外していたら、サムソンに突っ込まれた。


「何て書いてあるんスか?」

「明日の朝、迎えを出す。待っているように」


 返答はシンプルだった。

 明日の朝か……本当に、ギリアの絵って価値があるんだな。

 返答が早い。

 オレが手紙を読み終えるより前に、この手紙を持ってきたトーク鳥は飛び去っていった。


「指示しなくても戻るトーク鳥もいるんスね」


 飛び去るトーク鳥をみてプレインが感想をもらす。

 いろいろと個体差があるのかもしれない。

 トーク鳥のことはチッキーに任せているのもあって、まだ殆ど使い方を知らない。

 この一件が終わったら、少しは使い方を勉強したほうがいいな。


「馬車がきたわぁ」


 翌日の早朝。約束どおりに馬車がやってきた。

 かなり早い時間だ。

 ノアなんて眠い目をこすりながらオレの横にいる。


「大丈夫、お見送りするの」


 寝ていてもいいよと言ったのに、起きて見送ってくれるらしい。


「マジか……早いな、まぁ、がんばれ」

「リーダ頑張って」


 思い切り軽く対応したあげく二度寝についたサムソンとミズキの両名とは大違いだ。

 兵士を連れた馬車からヘイネルさんとエレク少年が降りてきた。

 通り一辺倒の挨拶をする。

 今日は、ロンロが横から台詞を教えてくれるので楽勝だ。


「ギリアの絵を手に入れたとか」

「はい、それで領主様に献上させていただこうかと……条件付きですが」

「ふむ。領主は城でお待ちだ。だが、その前に絵を確認しておきたい」

「畏まりました。では、こちらへ」


 屋敷を案内する。

 オレの行動を察してチッキーが小走りで屋敷へと戻っていった。準備をするのだろう。

 やや歩調を遅くする。


「随分と綺麗になったものだ……あれは?」


 オレについて歩いていたヘイネルさんが屋敷の上を見て質問する。

 その方向を見やるとガーゴイルが2匹飛んでいた。


「あれは守り手のガーゴイルですね。襲いかかったりはしないのでご心配には及びません」

「ふむ。なるほど」


 そんな会話をしつつ屋敷に戻ると、テーブルには紅茶が用意してあった。

 チッキーの優秀さに磨きがかかっている。

 カップを手にとったヘイネルさんを横目に影から絵を取り出しテーブルにおく。


「リ、リーダ殿?」


 その様子にヘイネルさんが焦ったような声をあげる。


「何か?」

「い……いや、あまりにも粗雑な扱いをしていたものでな」


 言われてみると、影から片手で取り出してポイとテーブルに投げるように置いてしまった。

 高価な絵にしては扱いが雑になっていた。気をつけねばならない。


「申し訳ありません」

「ふむ。確かに古い絵だ。これがギリアの絵だと?」

「はい。テストゥネル様がそうおっしゃっていたので、大丈夫でしょう」


 疑われているのか……。

 考えてみれば看破でもギリアの絵とは表示されない。もしかしたら、先ほどの雑な取り回しで偽物だと疑われたのかもしれない。

 しかし、テストゥネル様はギリアの絵だと言っていたし……大丈夫だろう。きっと。


「ふむ。最終的には領主様が判断されることだ」

「領主様にはこの絵の真偽がわかるのでしょうか?」

「わかる……そうだ。ところで君達は、この絵の扱いが粗雑に過ぎる。この布で包むように」


 ヘイネルさんが、後ろに控えていたエレク少年の方をみると、彼は白い布を鞄から取り出しテーブルの上に置いた。

 今度は、とても丁寧に絵を取り回し、白い布にくるむ。

 いまさらの事だが、丁寧に扱おう。

 それから馬車に乗り込み城へと向かう。

 行くのはオレとロンロ。ロンロが一緒なので、挨拶関係はバッチリだ。

 ノアからは、念のためとガーゴイル付きのマスターキーを預かった。


「危なくなったら使ってね」


 別れ際にそんなことを言われた。

 馬車の中では、バルカンの作った計画書を見てもらいつつ進む。


「バルカン……? 知らない名だな」

「バルカン様は、先日まで奴隷だった者です。解放奴隷となって、ロドリコ商会から独立したそうです」


 ヘイネルさんの呟きに、エレク少年が返答する。


「解放奴隷」


 独り言のように言って、ロンロを見る。


「解放奴隷はぁ、奴隷が、自分で自分を買い取って自由の身になることよぉ。バルカンは、いつの間にか解放奴隷になっていたのねぇ」


 そうか、それで商売ができるのか。


「ふむ。一通り必要な事項がそろっているな。だが、一つ問題がある」

「問題?」


 いきなり不備事項か。皆で目を通したときは気がつかなかったが、どうしたものか。

 しかし、そんなことは杞憂だった。


「この計画では、湯治に使える温泉であることが前提になっている。だが、あの温泉は温度が低い。あれでは飲み薬くらいにしか使い道がない」

「それは、私達が対応し、あたためますので大丈夫です」

「ふむ。では問題ないか」


 あっさりとヘイネルさんの疑問を解決し、その後は何事もなく城へとついた。

 さて、これからが本番だ。

 領主との対決だ。

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