火の酒

強い酒を、力任せに喉に流し込む。


あまりにも冷たく、あまりにも熱い液体が、激しい勢いで喉を駆け下り、胸に押し寄せる。



苦い。

痛い。

息が、できない。



今、初めて気づいたよ。

僕が、どれだけ君を愛していたか。


こうなってみなきゃ、わからなかった。

僕にとって、君がどれだけ必要なのか。


こんな強い酒なんて、一度も飲まなかったんだ。

君の前で、いい男でいたかった。

仕事ができて、良識のある、品のいい紳士でいたかった。

そんな窮屈な感情に凝り固まった僕は、結局のところ、君をも追い詰めたんだね。


こんなにも、愛していたのに。

真っ直ぐ伝えたことなんか、一度もなかった。

君を愛していると。



火のような酒が、初めて僕を激しく揺さぶる。

胸を掻き毟るほど、君が欲しい。

君を、今すぐこの腕に抱き寄せたい。

今更、気も狂いそうなこんな感情を呼び起こしたのは、この馬鹿みたいに強い酒だけだ。



君があのドアを出て行ったのは、たった45分前。

向かい側の小さな木の椅子に触れれば、きっとまだ君の温もりを感じられる。



なのに。

君は、もういない。



君は、僕の元を飛び去ってしまった。

たった今。


「君がそう決めたなら、それでいいじゃないか」

僕は笑って、そう答えた。

心にもない言葉を。

心にもないことにすら、気づかぬまま。



死んでも、手を離してはいけなかった。

手を離してから、そう気づく。

なぜ、宝物が手の中から消え去るまで、それが宝物だとは気づかないのだろう?



椅子を蹴って僕は立ち上がり、ドアを駆け出した。

息を切らして、あの面影を探す。


声を限りに名を叫んだ僕に、振り返る小さな影。


まさか。

僕の願いが叶うなんて。

僕は泣きながらその人に駆け寄り、力一杯抱き締めた。

「ごめん」と繰り返しながら。



酒の炎がまた喉を灼き、そんな馬鹿な妄想を一瞬で掻き消した。

闇夜の向こうに柔らかく霞む、淡く甘い妄想を。



古い木のテーブルにゆっくりと突っ伏し、僕はただ小さく嗤う。




君を、愛している。

この上なく単純な言葉を、僕は死ぬまで抱きしめて歩く。


この苦しみが、片時も胸を離れることのないように。

君が残した全ての記憶を、繰り返し瞼に描きながら。





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