第17話 勇者ちゃんと、猟介
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「おき……さいっ……おきて……すけ!」
「んあ?」
ゆさゆさと身体を大きく揺らされて、靄がかった思考が徐々に覚醒して行く。
「猟介! 起きてくださーい! ごめんなさいっ!」
アム……?
なんでそんな、慌てて。
「おっ、おい
」
「落ち着いてください会長。容体を確認して救急車を呼ぶのが一番適切かと思われます」
「えらくぶっ飛んだなぁおい。生きてるか?」
「先輩! 頼花先輩! しっかりして!」
「わ、私何かしましたかぁ!? 先輩すっごく怖かった……」
アムと生徒会の面々が、俺を取り囲んでガヤガヤと煩く賑わっている。
なんだ?
なんで俺、こんなところで眠って……あ。
「っ! へっ平気だ! なんでもない!」
慌てて上半身を飛び起こす。
思い出した!
書記ちゃんが急に触ろうとしたから、アムの自動迎撃スキルが発動したんだっけ!
庇った俺が代わりにぶっ飛ばされて、今の今まで気を失っていたのか!
「猟介っ! 良かったです!」
「良かったじゃねぇよお前ぇ……」
「ご、ごめんなさいごめんなさい!」
今回は三呪も重ねてかなり踏ん張ったから良かった物を、そうでなかったら今頃警察沙汰だからな!
腹から胸にかけて、ブレザーがバッサリ切れてやがる……。
南条さん、まだ起きてるかな。替えの服持ってきて貰いたんだけど。
「大丈夫か、頼花」
「お、おう。大丈夫大丈夫。心配かけたな会長」
差し出された手を握り、引っ張ってもらって立ち上がる。
そういや、生徒会長とは同学年だが、初めて会話した気がするな。
名前なんだっけか。
真面目で品行方正な会長と、素行が悪くて問題児と思われてる俺とじゃ接点が無い。
「びっくりしたぞ。彼女ができて嬉しいのは分かるが、あんまり羽目を外さないでくれよ?」
「彼女? 誰の事だ?」
「グランハインドさんだろ?」
なんでそんな話になってんの?
「違う違う。知り合いってだけで彼女じゃねーよ」
「……お、お前。付き合っても居ない女性と、そんな事してるのか」
な、なんでそんな睨みつけてくるんだよ。
何もしてねぇって。
あ、いや。何もってわけじゃないが、責立てられる様な事じゃない。
「す、すみませんでした。猟介。舞い上がっちゃてて」
「あ、ああ。これから気をつけてくれ」
しょぼくれて肩を落とすアムの頭に、試しに手を置いた。
うん。大丈夫みたいだな。
「俺も疲れて頭が回ってなかった。今回はお互いのミスって事で不問にしよう」
「……は、はい」
「ほら、念願の学校に通えるんだぞ? 元気出せって」
本当なら一日空けて登校する手筈だったのに、お前があんまりにも残念がるから急遽予定を変更して今日にしたんだぞ。
昨日は朝方まで『暗黒次元神』の軍勢と大乱闘してて、俺もアムも南条さんも完全に徹夜だ。
数にして千匹を越す大軍勢が、南アルプスの山々に蠢いていたのはさすがに肝が冷えたぜ。
ゲームやアニメでよく見る、『魔物』って奴らしい。
幸いだったのが殆どが意思も持たない獣の様な雑兵ばかりで、アムの魔法と俺の広域用の呪禁を使えば簡単に殲滅できた事だ。
偉そうにふんぞり返っていた指揮官も、三天将に毛が生えた程度の強さだったもんでさくっと切り込んで開幕にぶっ殺した。
想定以上に楽に対処できたから、今後の奴らの侵攻にもなんとか対処できそうだ。
三馬鹿次元獣そもからも有益そうな情報が出てきたらしいし、敵を迎え撃つ体制はこれでとりあえず形にはなるかな?
「……私、迷惑ばっかりかけてます?」
「ああ?」
何を今更。
たった一日だけの付き合いだが、こんな短い期間でどれだけ俺が苦労したか。
とは、口には決して出さない。
学校に通えると聞いた時のコイツは、戦ってる時の『勇者』だとは思えないぐらいただの『女の子』だったからな。
「そんな事ねーよ。ほら、職員室行くぞ。今日は学校の案内だけしたら帰る予定になってんだから、さっさと済ませて俺を眠らせてくれ」
もうほんと、睡魔がやばいくらい暴れてるんだから。
「──────は、はいっ」
その金色の髪と同じぐらい眩しい笑顔で、アムは頷いた。
こうしてりゃあ普通のおっぱいの大きな美少女なんだけどなぁ。
残念だ。
生徒会の五人に適当に挨拶をして、俺とアムは校門を潜って校舎へと向かう。
「あ、あの! 猟介!」
もう少しで玄関につくかと言う距離に来て、後ろを付いて歩いていたアムに声をかけられた。
「ん?」
ズボンのポケットに両手を突っ込みながら振り返ると、アムはまた──今度はとっても優しく、笑っている。
その紅潮した柔らかそうな頬を持ち上げ、金色の髪を風に揺らして、異世界から来た問題児は俺に──────こう言った。
「これから、よろしくお願いしますね?」
朝日を浴びて、余計にキラキラと輝くその姿に一瞬目を奪われる。
なんだか負けた様な気持ちになって妙に照れ臭く、俺は急いで顔を正面に戻した。
「──────こっちこそ、よろしく」
右手を軽く上げて、短くそう伝える。
どうやらこの少女とは、長い付き合いになりそうだ。
【第1章 終わり】
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