第10話「好きって、何?」

 知らないよ。好きって何か教えて欲しいくらいだよ。出会ったその日、彼女は私に答えた。

 私達は、互いに愛を知らない。好きが何かを、知らない。知らない同士、分かるために私達は、恋仲を演じていた。

「結局、分からずじまいだったね。残念」

 今日、私達は高校を卒業する。目指す道も違う私たちは、互いに干渉し合わなくなるだろう。今日で、私達はお別れということだ。何も分からなかった私達の恋愛ごっこは、時間の無駄だった。ということになるのだろうか。

「本当にね。うん、私も残念」

 彼女は、校舎裏で私と最後に話すこの時間、一度も私を見ようとしない。ずっとどこか遠くを見て、砂利を蹴飛ばしたり、上の空だった。

「お別れなんだけどね。本気で愛することが出来たなら、涙も流れたのかな」

 涙を流して、互いに別れを嘆くことが、あったのだろうか。呟いてみても、いまいちそうなる自分を想像できない。彼女が泣く姿を、思い描けない。

「さあ、人それぞれなんだろうね。私は、流れないみたい」

 知らないまま同士の私達の頬は、ただ乾いたまま、まだ冷たい春の風が刺さる。

 他の生徒が帰ったようで、実に静かな校舎裏。落ち着くが、どこか物足りない。まるで私達の距離感のようだ。

 ふと、彼女は私に向かって歩み寄ってきた。

「――!」

 唇に感じたのは、外気で冷えた彼女の唇だった。今まで、ついぞ交わることのなかったそれに、私の思考は固まる。

「私だけが、好きを知ってしまったのが、残念だったよ。またいつか、会えたらいいな」

 私はまだ、好きという言葉の意味を、彼女が知った愛を、知ることが出来ない。

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