第8話「噛み跡とキス」
「痛い」
首筋を噛まれた後、私は大した反応も示さず、ただ一言そう呟く。私に跨る彼女の顔がむっとするのがすぐに分かる。
「ごめん、もっと優しくすればよかった」
そう言いながらも不服そうに頬を膨らすのはある意味仕方ない。首筋から流れる血をティッシュで拭き取り、彼女と目を合わせる。
彼女は吸血鬼である。それだけで、大体の話は伝わるだろうが、説明するとしよう。
私の血を吸おうとするが、痛いものは痛いと私が言うので、満足に吸えない。以上、簡潔に説明した。
「仕方ないよ、死にたくはないんでしょ。吸わせてるだけ我慢我慢」
優しく諭すが、吸血鬼の少女はしゅんとしたままである。まあ、餓死が飢餓状態に変わった程度では、そんなものだろう。しかし、どうしたものか。
「体液で良いんだっけ。餌って」
痛みを和らげようと、首筋を揉みながら聞く。確か彼女が私に餌を求めた時、体液をよこせと言っていたはずだ。
「良いけど、体液なんて血液くらいしかないでしょ……って!」
いじけて話す彼女の唇を、不意打ちで奪う。それも、深く深く。舌を押し込め、唾液を送る。彼女のまごつく姿が面白い。
「どう? 空腹もさっきより満ちたんじゃない?」
そういうと彼女はブンブンと両腕を振りながら文句をこぼす。
「こんな! こんな恥ずかしいことしていいわけないでしょ! お腹は満ちるけど!」
その反応にクスリと笑いながら、上手に応じる。
「だって、私達付き合ってるから、いいでしょ?」
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