第101話「まだ見ぬ強敵」
「ほう、その名を出すのですか……」
バルバボッサが口走った「ナジュラ」というフレーズに、モニカは顔色を変えた。先ほどまでの侮るような視線を切り替え、バルバボッサに対して敬意を持って言葉を紡ぐ。
「確かに、グランツアイクの誰も触れたがらない案件ですし、彼らの夜王を下したという実績を鑑みて、偵察とは言わずに崩壊まで任せてみるのも策ではありますね」
「そう急く必要もないだろう。最近、ガーランドロフのやつが活発化していると噂に聞く。攻めるのは十分に情報収集をしてからでも構わん」
「そう……、ですね。どうも足りない一手になりえる人材なのでしたら、ここで活用するべきかと」
「ちょっと待った」
2人で先へ先へと進む展開に、見かねた道周がストップをかける。訳も分からないまま決定されることは、渦中の当人として避けなければならない。明確な嫌悪感を滲ませて意見を投げる。
「確かに俺たちは力を貸すと言ったが、置いてけぼりっていうのは具合が悪い」
「これは失礼しました。
居直したモニカが真っ直ぐに対面する。道周を始めとした4人に向き合い、流麗な眼差しで真摯に言葉を選ぶ。
「ナジュラというのは、グランツアイクに隣接する領域のことです。バルボーが口走った「ガーランドロフ」というのは、ナジュラの領主のことです」
「私もグランツアイクとナジュラは抗争状態にあると聞いたことがあります」
「その通りです、ハーフエルフのお嬢様。しかし補足をさせていただくなら、グランツアイクとナジュラとは領域としての力も、領主同士の力にも大きな開きがあります」
「グランツアイクの獣帝さんの方が強いってこと?」
マリーの回答に、モニカは首肯する。三角耳を僅かに震わせながら柔和な笑みを受け、マリーはどことなく嬉しそうに頬を赤らめる。
「ナジュラは若い領域だろう。面積だってエルドレイクほどしかねえって話だ。そんなミジンコみてえ領域に、かのグランツアイクが何を手こずる?」
「これだから小物は。大局を見たつもりで偉ぶっても小事に関心が行き届かないのです。これだから小物は」
「なぜ2回繰り返した」
リュージーンの抗議も受け付けず、モニカは噛み砕いて説明を続ける。
「他の領域はどうか知りませんが、グランツアイクは実力こそ大正義とする領域です。常に領主の座を狙う者は後を絶ちません。相手の規模に関わらず、領主が不在というのはありえません」
「獣帝さん以外に戦う人はいないの?」
「そこで元の問題に立ち返るのですよ、美しい金毛のお嬢様」
この対応の差は何だ!
リュージーンが席を立って猛抗議するが、道周たちは華麗にスルー。モニカも取り合うつもりはないらしく、何も聞こえていない体で話を続ける。
少し離れた席ではバルバボッサが必死に笑いを堪えていた。耐えきれない巨掌で、静観するウービーの背中を殴打する。
「ナジュラの領主である「ガーランドロフ」という男が厄介なのです。
走力はわたくしの次に速く、腕力はバルボーの次に強い。五感はわたくしの次に鋭敏で――――」
「その言い方だと、なんだか大したことないように思えるな」
「ねー」
次々と2番を言い渡されるガーランドロフなる男を不憫に思い、リュージーンはホロリと涙を零す。己の置かれた状況と重ね合わせたのか、それはしみじみと消え入る声であった。
そしてマリーは何の気なしに同調する。バルバボッサの脅威を身を以って経験しただけに、ガーランドロフに対する脅威はそれほど感じない。
ただ、道周の顔は険しかった。
マリーたちが勝手に緩めた空気に、モニカは冷や水を浴びせるように言葉を紡いだ。
「――――バルボーの次に強いですよ、彼は」
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