第62話「燃える都市 2」

 夜王の巻き起こす疾風と、熱気有り余る爆炎が入り混じるエルドレイクは地獄の様を呈していた。

 そんなこの世の終わりのような街並みを駆ける2人の人影は、狂戦士たちの猛追を受けながら爆走していた。


「――――で、どこに向かっているんだリュージーン!?」

「できるだけ敵の薄いところだ!」

「どこに向かっているとかは?」

「ない!!」


 なんだと――――。


 道周が上げた抗議の声は爆音に飲み込まれた。それをいいことに、リュージーンは聞こえないフリをして脚の回転速度を上げる。


「Buuraaa!」


 逃げる2人に向けられて「百鬼夜行」は荒々しい咆哮を上げる。

 逃げる2人と追う100人の距離は徐々に縮まっていき、出鱈目に投擲された瓦礫がリュージーンの頬を掠める。

 すぐそこの後方まで迫る脅威に顔色を変えたリュージーンが、隣を疾走する道周に語り掛ける。


「ミチチカ、白夜王は俺が背負ってやるから、後ろの奴らの露払いをしてこい。何なら全部倒しても構わんぞ」

「あんなバーサーカーと正面から殺り合ったらミンチにされるわ。

 だがセーネを背負うのを代わるというのは凄くいい提案だ。ほら、代われよ」

「拒否す」


 ズドォォォン――――!


 飛んだ大岩が2人の隣の建物を粉砕した。飛び散る瓦礫から守るように頭を覆い、無駄口は塞がれる。


「Aaaaryyy!」

「Gyyeee!」

「Buruuuooo!」


 好機を察した「百鬼夜行」が一層猛々しく雄叫びを上げた。

 気が付けば追走する「百鬼夜行」の軍隊は、2人へ手が届きそうなほど迫っていた。

 「百鬼夜行」が速度を上げたのではない。逃げる道周の体力が限界に近いことと、単純にリュージーンの走力が不足しているのだ。

 直近に迫る恐怖と暴力の化身に、思わず鳥肌が走る。

 腹を括った道周が走るリュージーンに向き直り、脚を止めずに提案をする。


「セーネを任せるぞリュージーン。少しでも遠くへ行って生き延びろ」

「と言うとミチチカはどうするつもりだ?」

「後ろの奴らを引き付けるさ。「ここはオレに任せてへ行け」ってやつだ」

「ミンチにされるんじゃなかったか?」

「それは「殺り合った」場合だ。はぐらかして逃げる分には問題ないはずだ。……多分」

「不安しかねえな!」


 しかし時間に余裕はない。迫る「百鬼夜行」に遠慮はない。伸ばされた怪腕が、背負われたセーネの背を掠めたとき、


「――――伏せて!」


 飛び込んだ声のまま、道周とリュージーンは前方へヘッドから飛び込んだ。凸凹に荒れ狂った石畳に身を削りながら、2人は重傷なく着地する。

 その後方では巨大な光球が「百鬼夜行」を捉え、鼓膜を突く爆音を響かせた。


「OOOooo――――」


 輝く炎に飲み込まれた「百鬼夜行」たちが絶叫しながら光に消える。思わず脚を止め見入ってしまう光の奔流は留まるところを知らずに拡大する。球形に肥大化する光に「百鬼夜行」たちは足踏みする。


「これは――――!?」


 目の前で巻き起こった奇跡に、道周は息を飲む。この優しく温かい光に心当たりはあったが、これほどの威力は道周の知るものではなかったのだ。


「逃げるよミッチー。立てる……?」


 赤い炎に照らされる金色の絹髪を揺らし、純粋無垢な碧眼で道周を見詰めていた。

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