第60話「希望」
「セーネ! しっかりしろセーネ!」
駆け寄った道周は両腕でセーネを抱き上げる。しかしセーネからの応答はなく、道周の腕に全ての体重を乗せてすやすやと眠る。
だが状況は依然芳しくない。
沈黙したセーネと道周を囲む敵はより一層猛々しく狂い立つ。「百鬼夜行」ががなり立てる咆哮は鼠穴の穴もない。
さらには天井を踏み抜いて夜王が舞い降りる。ケイオスの遺骸を足蹴に敷いて、道周を嗜めるように語り掛ける。
「どうする剣士よ。愚妹はくたばったかな?」
「よく眠っているよ。誰かの陰気な策略のせいでな」
「ふははっ。ならば留めを刺すだけだな。貴様諸共だ、覚悟しろ逆賊」
「気にするな、セーネが目覚めたときには全部終わっているだろうな」
などと軽口で返す道周であったが、その実余裕などはなかった。この切羽詰まった状況を覆し、大逆転勝利を収める方法は、ない。
「さぁ、押し潰せ「百鬼夜行」。一切の望みなく蹂躙せよ」
「「「WuuooOOO!!」」」
勝利を確信した夜王が号令をかけた。
荒々しい足踏みで応える「百鬼夜行」が怪腕を掲げる。堰を切った100もの狂戦士が、道周1人を目掛けて雪崩れ込む。
この物量の大波を押し返す術を道周は持たない。
「万事休すか……!?」
道周は奥歯を噛み締め、思わず両腕に力が入る。
道周が諦めを悟ったその瞬間、天地が揺れる激震が巻き起こった。鼓膜を刺激する爆音が城外から轟き、遅れて空気が震える。
「今度は何事だ……!?」
突然の大爆発に、苛立ちを隠せない夜王は舌打ちをして顔を外へ向ける。
本能的に危険を察知した「百鬼夜行」も思わず足を止めて振り向いた。
そして誰もが意識を城外に向けた途端、不夜城の輝きが失われる。城内に張り巡らされたガスの供給が止まったことにより、燃える灯の光が弱まる。ロウソクの火は爆風で掻き消され、残る僅かな明かりも消え失せる。
城外の都市では劫々と夜の天蓋へ立ち昇る業火が燃え盛っていた。火の勢いは益々強まり、再び遠くで爆発が起こった。
天球が破裂したように爆発は白い光を放ち、遅れて赤爛とする炎が頭を持ち上げる。
レンガ造りの都市を焼き尽くし黒煙が立ち昇る。
逃げ場を奪われる住人の阿鼻叫喚が聞こえる。
混沌を極める喧騒を切り裂いて、道周へ一つの言葉がかけられた。
「限界だ。逃げるぞ」
冷徹な声色で、冷静な判断が下される。
常に卑屈に、斜に構える彼が、積み重なる瓦礫の隙間から手を差し出した。
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