第118話「してたわー……」



 とはいえ――


「質問も随時、受け付けてるよ~」

「答えに直結するような質問には答えられないけどね!」


 ハツラツにそう言って、二人のアヤメはあどけない笑みを浮かべる。

 その表情、仕草、喋り方もまるで鏡写しのように瓜二つ。ぱっと見では、差異が全く分からない。

 私の隣でトーカも「むむむ……?」と難しげに眉をしかめ、どちらが自分の本当の兄なのかを見抜こうとしている。

 しかし彼女は首を傾げるばかりで、見た目だけでは判別がつかないようだった。


 よかった……。

 もしこれで「こっちですー!」とか言って一瞬で当てられたらショックで泣くところだった。


「うーん……」


 隣のトーカに続き、自分の口からも悩ましい声が漏れる。

 見た目で判別ができないなら、目の前のアヤメが言うように質問でその正体を暴くしかない。

 主従契約による霊力のラインを辿ろうとしても、ジンが何かしたのか追えなくなっているし……


(それに"オーダー"で暴こうっていうのもね……)


 これはジンの仕掛けたお遊び。

 お遊びに絶対命令権を持ち出すのは大人気なく思う。そしてなにより……


(……自分の実力だけで、彼を見抜きたい)


 そういう、自分の想い人へ当てた意地のようなものが。

 ――恋人としてのプライドが、大いにあるのだった。


「あ、質問は一回だけね? それくらいじゃないときっとすぐ当てられちゃうから」


 そう言うのは左のアヤメ。垂れ気味な瞳を優しく細め、くすりと柔らかい笑みを浮かべている。

 言動からして私達への信頼が見てとれるけれど……もしかしてこっちがアヤメに化けたジン?

 でも、そんな簡単に尻尾を見せるだろうか。仮にも無双の戦鬼と呼ばれ、恐れられている日本の鬼が。

 訝しんで左を見ていれば、今度は右のアヤメが口を開く。


「ふっふっふ、その代わりと言ってはなんだけど、大抵の質問には答えるよ! ふふ……普段じゃちょっぴり聞きにくいこととかにも、ね?」


 パチリ、と。イタズラっぽくウインクをする右のアヤメ。

 うぅん、こっちもこっちでノリノリな感じで怪しい。

 果たして右は、こちらをつついて楽しむ鬼なのか、それとも唐突に訪れた非日常を謳歌する人間なのか……。


「質問、質問ですか……」


 トーカが顎に手を当て考え込んでいる。

 うんうん。やはり、質問が雌雄を決すると見たわね。大抵のことには答えると言っているし、ある程度踏み込んだ質問で反応を窺うしかなさそう。

 アヤメならこちらの正体も知っているし、質問の幅も広くとれる。

 じゃあどんな質問をしてジンを炙り出すか、だけれど。

 んー……ジンしか知らないこと? でも誤魔化されたらその時点で分からないし……あれ、結構意地悪じゃないこれもしかして?


「はいはーい!」

「はい、刀花ちゃん!」


 しまった。

 ごちゃごちゃと考えていたらトーカに先手を取られてしまった……というかこれって早押しなの? その辺レギュレーションしっかりしなさいよ!

 運営に物申したくなる私を尻目に、元気よく手を挙げていたトーカはにっこりと笑みを浮かべる。そんな彼女が放つ質問とは……?


「むふー、それでは質問です。"兄さんの、私の好きなところはどういうところですか? それぞれ五つほど教えてください"」


 へえ……?

 確かに、それならジンを炙り出せそう。あの子、トーカのことになると早口になるから……。

 そしてそんな質問を向けられたアヤメの様子はというと、


「お、おぉー……」


 ……顔を赤くして感心したような声を挙げている。

 トーカから溢れ出るジンへの好意に当てられて、たじたじになっているみたい。

 まあ「私のこと合計十回好きって言って?」って言ってるのと同じだし、仕方ないことかもしれない。

 まったくもう、節度を持ちなさいよね節度を。私達は淑女なんだから。


「う、うーん、そうだなあ……」


 それにしても。

 赤くなりつつも、「あはは……」と照れ臭そうに笑うアヤメを観察する。

 どちらか一方が照れていたり、過剰に反応していたなら見分けもつきそうなものだったけれど……どちらも、同じ反応だった。

 ジンがするような反応ではなく、おそらくアヤメ本人がしそうな反応。これじゃ、まだ分からない。


「こ、コホン……じゃあ、私から言うね?」


 仕切り直すように咳払いをして、そう言うのは右のアヤメ。


「えっとねえ……まず、いつでも元気いっぱいなところ!」


 うんうん、順当なところね。まあ当たり障りのないところだわ。これだけじゃ判断はできないけれど。


「家庭的なところも女の子っぽくて可愛いし、刃君の雰囲気に合わせようと髪を伸ばして背伸びしてるところも乙女チックだよね!」


 んー……?

 結構、内面的なところにも踏み込んでくるわね? 特に髪を伸ばすきっかけなんて、ジンがアヤメに話したのかしら。


「あとはそうだね、絵が上手いのとー」


 それは物議を醸すところじゃない?


「あとはえっと……ふわー……!」


 え、なになに?

 なにやらアヤメが唐突に奇声を上げて真っ赤になったけど。

 そんなアヤメはもじもじとしながらも、言いにくそうに五つ目を紡いだ。


「えっと……お、お風呂で、その……柔らかい身体を使って、身体を洗ってくれるところ、かなっ?」


 ちょっと待って何でそれ知ってるの。

 怪しい……その情報を知り得るのはジンだけじゃない? でも反応はアヤメそのものだし……うーん?

 そう首を傾げる私の隣では、褒めそやされて照れ照れしているトーカがいる。あなた真面目に考えてる?


「あ、あはは……じゃあ次は私が言うね」


 より深まる謎に、今度は左のアヤメが声を上げる。

 ちなみに左のアヤメも、頬を染めて気まずそうにしていた。


「んとね、刀のお手入れしてくれる時の優しい手付きでしょ?」


 私もしてみたいんだけど、いつさせてくれるのかしら? トーカだけずるい。


「むふーっていうのも可愛いし、お、おっぱいもおっきいし」


 ちょっと噛んでる。

 というか胸も好きなところに入ってるのね……それは大きさゆえなのか、トーカのだからなのか。ほ、掘り下げたい……って、いやいや。

 頭を振って雑念を追い出す。だめだめ、これじゃ私が胸にコンプレックス持ってる女みたいじゃない。

 違うわよ? 私、美乳派だから。自分のスタイルには自信あるから。

 うーん、それにしても、左もアヤメっぽい。というか、どっちもジンの要素が薄いというか……?


「あとはー……ストレートに好意を伝えてきてくれると、こっちもいっぱいお返ししなきなゃってなるよね」


 あ、これはなんだかジンっぽい。うんうん。


「それとね……はうっ……!」


 また奇声を上げて真っ赤になってる。なんなの……?


「あの……朝起きて家事をする前に、寝てる刃君にこっそりキスする、と、ところ……?」

「バレてました!?」


 え、なにそれ知らない。

 私ですら知らない情報をなんで? というかなんでトーカもビックリしてるのよ。顔真っ赤だし。バレてないと思ってたのね……。


「す、すごいなあ……そんなことしてるんだー……」


 なぜか暴露した側である左のアヤメも、呆けたようにそんなことを言っている。

 えぇ……? どっちもジンしか知り得ないことを知っていて、かつどっちもアヤメっぽい。

 ジンったら、さては当てさせる気ないわね……? しかし、


「なるほど、だいたい分かりました」


 え!?

 隣のトーカはしばらく恥じらいに悶えた後、スッと姿勢を正してそんなことを言い出した。

 え、今ので!? 分かったの……? 嘘、私全然分かんないんだけど。


「まあ、兄さんらしいですね。もう、意地悪なんですから」

「ふふ、分かっちゃったかな?」


 待って待って。

 アヤメも進行させようとしないで。私が当てるんだから!


「ちょ、ちょっと、私も質問したいんだけど?」

「あ、そうだね。ごめんごめん。リゼットちゃんからも聞かなきゃフェアじゃないよね!」


 せ、セーフ。

 なんかもう消化試合感出されて焦ったけれど、なんとか私のターンに持ち込めた。

 だけど……し、質問どうしよう……。

 トーカが正解に辿り着いたことがプレッシャーになって、有効な案が何も思い浮かばない。

 うぅ、でも私だけ外すのは絶対にイヤ!

 えっと、えーっと……! こ、こうなったら……!


「わ、私の好きなところも、言いなさいよ……」


 ボソボソと、自分の口からそんな声が漏れる。

 い、言ってしまった……。

 い、いえ、これはいい手よ? トーカはこの質問で解に至ったんだから、私に向けた同じ質問で、私が答えに至れない道理はないわ。

 あと、あなたが私のことがどれだけ好きなのか、アヤメに見せつけることもできそうだしね? あなた達、最近仲よさげだし……。


(それに、私も……あなたが私のどこが好きなのか、知りたいし……)


 口には出さないけれど、そんな思惑もあるのだった。


「ふふ、かわい……じゃあまた私からね。えっと、金髪が綺麗でー、肌のお手入れも欠かさないからスベスベで触り心地がよくてー」


 うんうん。

 これでも外見には気を遣っているのだ。化粧水だって妥協しない値段のものを買っているし、綺麗と言ってくれなきゃ甲斐がないというものだわ?

 ……ちょっと恥ずかしいわね、これ。


「どんなことにも一生懸命に取り組むところも好きでー、だけど日本に来てちょっぴり油断し始めたのか、だらけちゃうところも等身大っぽくて可愛いよね」


 そ、そんなこと思ってたの?

 確かに最近だらけ気味だったかも……でも、それはあなたが甘やかすからで!


「それで特に好きなのは……ふふっ、素直になれずになにかと理由をつけないと甘えられない姿に、キュンと来るかなー」

「あ、あう……」


 頬が熱い。

 そんな私を、アヤメは微笑ましそうに眺めている。

 ちょっと、なにこれ! 新手の拷問!?


「はーい、じゃあ次は私ね?」


 ペース早い! ま、まだ心の準備が!

 あたふたしている間にも、左のアヤメは頬に指を当て、問答無用で話し始めた。


「えっとねー、歌声がいいよね。あと自分がつり目気味なところを少し気にしてるのも可愛いし」


 あ、ああ、この前カラオケに行った時のことね。

 目のことは……あれ、ジンに言ってたかしら? 生まれてこの方ずっとしかめっ面してたから治らないのよねこれ……。


「ニンジン食べた時にちょっと冷や汗かくのも萌えるし」


 た、食べられはするから……。

 それにいつだったか「マスターはニンジン嫌いそうな顔をしているなあ」って言ったの忘れてないからね。どんな顔なのよ。


「ゲームの対戦で負けて泣きついてくるのも子どもっぽくて可愛いよね」


 あれハメでしょ? ブルームフィールドじゃノーカンだから。


「あとは……おぉ……そ、そんな子どもっぽくて強気な部分が目立つけど、キスをした後は……すごく、その、え、えっちな、かかか顔になるギャップが、たまらない、そう、です……」

「ふぁーーー!?」


 何言ってるのー!?

 変な声出ちゃったじゃない! や、やめてよそういうぶっ込んでくるの! 顔あっつ!


「さ、さすがは恋人だね……ゴクリ……」


 二人のアヤメは、どちらも顔を真っ赤にして喉を鳴らしている。

 あ、あーら、見せつけちゃったかしらぁ……? うぅ、無理ぃ……恥ずかしいぃ……!

 見られてたんだぁ……今朝もえっちな顔してるの、ずっと見られてたんだぁ……ばかぁ……!!


「え、えーっと……こ、コホンコホン! じゃあ、質問も終わったよね?」


 アヤメ自身も頬を染めながら、場を仕切り直すように声を上げる。

 あ、すっかり忘れてた……。


「むふー、まあ楽勝ですね。リゼットさんも分かってるでしょうし」

「えっ!? そそそそうね!」


 羞恥に身悶えしていると、トーカからいきなり振られてテンパる。

 だから分からないんですけどー!?


「ふふ、二人ともホントに刃君が好きなんだ。今の問答で、刃君も二人のことが大好きなのが伝わってきちゃったな」


 い、今そう言われるのは少し苦しい。

 いまだ分からないということは、その好きが足りていないと言われてるみたいで……


「じゃあ答えは……リゼットちゃん言う?」

「リゼットさん、お願いしますね」


 こんな時だけなんで私に振るのよ!?


「引き分けですかあ。これは三人がけのソファを用意してもらわないといけませんねー」

「じゃあ次は少し大きめのカフェに行こっか。純喫茶とかどうかなあ?」


 や、やめてよ当てるの当たり前みたいな空気感出すの……。

 というかヒントとか絶対無かったでしょ!? どっちのアヤメもジンしか知らないこと知ってたし、どっちもアヤメっぽいし!

 だらだらと嫌な汗が流れる。

 待ってー、ホントに待ってー……当てたいの。ご主人様当てたいの! ジンに「さすがは俺のマスターだ」って言われて頭撫でてもらいたいの!

 何か、何かないの?

 私じゃ質問をしても分からないことが分かった。悔しいけれど。真っ当な手段じゃ無理。


「はい、じゃあリゼットちゃん、正解は?」

「……っ!」


 二人のアヤメが、こちらに手のひらを向ける。

 も、もう選べって言うの……?

 迫るタイムリミットに頭がぐらぐらする。思考がまとまらない。

 私がどちらかの手を取ればそこで終わり。でも、もしここで外したら……!


「あ」


 ま、待って。

 必ずしも私が手を取る必要はないんじゃない?

 こ、こうなったら、向こうから正解を提出させるしか……!


「――あ、あら。眷属の癖に、ご主人様の手を煩わせようっていうの?」


 私は余裕たっぷりに見えるよう、髪をかき上げながらそう言い放つ。そう、全てお見通しよ、とでも言うように。


「おお、お嬢様っぽいね!」


 目の前のアヤメは感心したようにポムと手を叩く。大丈夫? 高貴さ出てるかしら? 私ゴージャス?


「ま、まあ? あなたにしては面白い趣向だったわね。当てるついでに、私を楽しませたご褒美も与えるわ。特別にね?」


 声が震えないよう注意しながら言葉を紡ぐ。正直、声がひっくり返りそうだけど。まだ……!


「兄さんにご褒美? なんでしょうか……」


 不思議そうに首を傾けるトーカに、不敵に見えるような笑みを浮かべる。


「決まってるわ。アヤメも言ってたらしいじゃない? 嬉しいことをしてくれたら"ありがとう"だって」


 そう、その感謝の言葉で……ジンを誘き出す!

 み、見くびらないでもらいたいわね! 私だって、やればできるんだから!

 私は頭の中で自分を奮起させる言葉を並べる。今から言おうとしている言葉を思うと、息が切れるけれど……当てられない方がイヤ!


「だからジン? その――」


 ゴクリ、とさりげなく喉を鳴らし、私はジンを誘き寄せる言葉を紡いだ。手を丸めながら。


「出てらっしゃい、ジン。いい催しだったわよ――ありがと、にゃん☆」

「……」

「……」


 ……


 …………


 ………………。


 やめて?

 何言ってんだこいつ、みたいな視線を私に向けるのやめて? トーカ、あなたに言ってるのよ?


「はわわわわ、そういうプレイしてるんだ……!」


 そう、せめてアヤメみたいに真っ赤になって勘違いを……いや違ってはないんだけど! そういう反応をしてくれないと、私、わ、私……うぅ私は何てことを――!

 やらかした感から、瞳から涙がじんわりと溢れ出そうになる……その時、


 ――ヒュウゥゥゥゥゥ……ベチャッ!


「きゃあ!?」


 なになに!?

 上から……上空から何か落ちてきたんだけど!?

 歩み寄り、覗き込む。

 おそらくビルの屋上から、コンクリートに鈍い音と共に落下してきたそれは……


「あ、ジン……」

「刃君大丈夫!?」


 どこか悟りを開いたかのような、穏やかな死に顔を晒す、私の眷属だった。




「大丈夫なんだ……あ、コホン。というわけで、"どちらでもない"が正解でしたー♪」

「兄さんってこういう時、意地悪ですからね。"どっちも"か"どちらでもない"かで迷ってましたが、綾女さんがきちんと綾女さんぽかったので、すぐに分かりましたよ」

「くく、その通りだ。鬼が真っ当な二者択一など用意するものか。用意されたものを蹴散らし、己が覇道を往く者こそ俺に相応しい。マスターもよく見抜いたな。さすがは俺のマスターだ、俺は誇らしい」

「へっ!? あああああ当たり前じゃない!?」


 いや分かるわけないでしょ……。

 四人でランチをとるための喫茶店に向かいながらの種明かし。私は影で重くため息をついた。


「刃君って色んなことができるんだねえ。電話いらずだ」


 おっとりとした雰囲気で、とっくに一人の姿になったアヤメが言う。

 そう、目の前にいた二人のアヤメ。一人は本物で、もう一人がジンの作り出した幻影だったのだ。ご丁寧に、アヤメの人格もトレースして。

 その二人と、彼は以前私達としたように感覚を繋いで、ああ言えこう言えと指示を出していたのだ。私達を見下ろすビルの屋上で。私達の反応を楽しみながら……なんて悪辣なのかしら、この鬼!


「ああ、本来は主と妹のためにしか振るわないが……特別だぞ?」

「友達だから?」

「ククク、そうだとも」

「ふふ。あ、二人ともごめんね? イタズラなんてダメなことなんだけど、つい……」


 申し訳なさそうに、ジンと話していたアヤメがこちらに頭を下げる。

 まあジンって強引だし、押しきられるのは仕方ないわよね。

 そう思っていると、トーカは気にしてなさそうにパタパタと手を振った。


「いえいえ、兄さんと遊ぶのは大好きですから。それに兄さんも楽しそうでしたし、また遊びましょう!」

「そう? ありがと! リゼットちゃんも、その……あはは……」


 曖昧に笑いながら、アヤメは言葉を濁す。

 や、やめて?

 そんな、"今はお嬢様然として振る舞ってるけど、裏では自分の下僕とにゃんにゃんプレイしてるんだあ……"みたいな目で私を見ないで?

 か、勘違いだから! あ、いえ、お酒の席で一回しただけだから!

 ん? あ、猫カフェでもしたっけ。あと夏休みの終わりにもメイド服着てやろうとしたかも……?

 ……勘違いじゃなかったわ。してたわ。にゃんにゃんプレイしてたわ。ご主人様、眷属とにゃんにゃんプレイ堪能してたわー……。


(ま、まあ必要な犠牲だったのよ……私が身を切ったからジンの信用は落とさずに済んだし)


 ほら、隣を歩くジンもどこかほっこりしながら「リゼットにゃんの歴史にまた一ページ……」なんて呟いてるし。何その呼び方キモい……。

 私はいらぬ恥をかいた気分で肩を落としながら、ジンを見上げた。


「疲れたわ……ジン、喫茶店まだ?」

「ん、ああ。ちょうど着いたぞ、ここだ」


 ジンのその言葉に安心する。

 ふう、さっきの一幕で体力と精神力をかなり消耗したから、早く落ち着きたいのよね。

 顔もまだ熱いし、アイスティーをいただこうかしら。

 そう思いながら、ジンが開けてくれているドアをくぐれば……


「お帰りなさいませ、ご主人様! お嬢様方!」


 フリフリのメイド服を着て営業スマイルを浮かべる、幾人のメイドが私を出迎えるのだった。


 ははーん……さては私をもっと疲れさせる気ね?

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