【17】 黒い影

 とある黒いセダンが峠道を飛ばしていた。

 前の車に追いつくと車間を詰め、道を開けさせようとする。それでもどかない場合はイエローカットしてでも抜いていく。あまりにも苛立つときはクラクションを鳴らしながら抜いていく。

 運転席にはいかにもガラの悪そうな人物が乗っていた。

 そいつは何かを探すかのようにキョロキョロしながら運転する。前方からバイクが走ってくれば、相手の迷惑などお構いなしにハイビームにしてそのバイクを確認する。それを何度も繰り返す。中には怒ったような身振りをするライダーもいるが、そういう時にはUターンして怒鳴りに行く。

 傍から見れば、あまりにもおかしな行為。下手をすれば犯罪だ。

 男はここ最近になって、峠道に来るようになった。理由はもちろん、ワインディングを楽しむためではない。どこか目的地があるわけでもない。

 暇つぶしと言えばそれまでだが、ただ自分の女にちょっかいを出す奴がいることにはむかついた。舐められている。そう感じた。

 この峠をよく利用するライダーたちの中では悪い意味で有名になり始めていることなど、男は知らない。自身がバイクに乗らないため、そういったバイク乗りのネットワークなど知る由もない。

 他人を危険にさらしていることなどお構いなしに、男は頻繁に峠に出入りする。

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