「春浅し」

「あ、氷が張ってます」


 襖をほんの少し開いて庭の池に薄く氷が張っているのを見て教えれば、彼女は視線を寄越さずに。


「疾く閉めよ、寒くてならん」

「せっかくの春ですのに」

「氷が張っていると言ったのは誰ぞ」

「春浅し、ですね」


 言いつつ襖を締めると火鉢に火を入れていた彼女が眠そうにかふりとあくびをした。まるで猫みたいな仕草に、つい軽く笑ってしまい。

 赤い目で睨みつけられたのは浅い春に隠した内緒事ってことにしたい。

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