原初田元章の現象講座 Wai-wai Science~

「TVの前の皆さん、こんにちは。今日も『わいわいサイエンス』の時間がやって参りました。さて、今日は無類の『現象げんしょう研究家』でいらっしゃいます、原初田げんしょだ元章げんしょう先生をお招き致しました。原初田先生、こんにちは」


「こんにちは」


「原初田先生は、当番組にお越し頂くのは初めてですよね」


「はい。たいへん伝統のある番組に招かれ、いささか緊張しております」


「原初田先生を初めて観る方もいらっしゃるかもしれませんので一応の説明を。先生は、世界中の『現象』を蒐集しゅうしゅうしておられる、現象界の大家でいらっしゃいます」


「大家だなんて。恐れ多いですよ」


「先生は今までに、様々な現象についての論文を数々と発表されてきましたよね」


「そうですね。有名どころでは、一つの漢字をずっと見つめていると各部位がバラバラに見えてよく分からなくなってゆく『ゲシュタルト崩壊現象』、両目・口に対応した三つの点が存在すると人間の脳が自然に顔の存在を感知してしまう『シミュラクラ現象』などがあります」


「なるほど。それらは私も聞いたことがあります。世界には様々な現象が存在しているんですねぇ。今日は、先生が今までに蒐集してきた、色んな現象を紹介して頂けるということで、私も視聴者の皆さんも大変わくわくしております」


「今日は有名どころからマイナーものまで、たくさんの現象を持ってきました。お目汚しにならなければ光栄です」


「ありがとうございます。では早速、原初田元章先生の現象講座を始めて頂きます。先生、どうぞ壇上にお上がりください」


「分かりました。皆さん、こちらのホワイトボードをご覧ください」





『ミッドナイトクリーン現象』

「深夜にテスト勉強をしていると、無性に部屋の掃除をしたくなる現象ですね。恐らく日本中の学生さんが体験したことのある現象ではないでしょうか」


『チャリカッチン現象』

「向かってくる相手の自転車がずっと遠くから見えていたのに、お互いなんとなくハンドルの軌道修正するタイミングを逸して、結局ぶつかる直前で二人ともブレーキを踏んでしまう現象ですね。とても恥ずかしい現象です」


『ユージュアル・ブラインドタッチ現象』

「USB端子をPCに適当に差そうとして、うまく嵌まらなかったので逆向きにするもやっぱり上手く嵌まらず、もう一回逆向きに差してみたらしっかり嵌まったので『あー、やっぱ最初の向きで合ってたかぁ』となる現象ですね。世の諸行無常を感じさせる現象です」


『ライフ・イズ・ビューティフル現象』

「電気を消した真っ暗な部屋で布団にくるまって寝ようとしている時、ふと『自分の死』について考えだしてしまい、漠然とした不安で震えが止まらなくなる現象です。考えれば考えるほどドツボに嵌まるので、この現象に陥ったときはいったん部屋の電気を点けて能天気なギャグマンガなどを読むのがよいでしょう」


『ハーメルンレミングス現象』

「コンビニ店内を夢遊病のようにうろうろしていた複数の客たちが、最初の一人がレジに向かうとたちまち全員レジに並び始める現象ですね。なんだかよく分からないけれど『負けた』気分になるんでしょう。とても浅ましい現象です」


『ブレイク・ザ・プロミス現象』

「『次の席替えであの子の隣になったら告白しよう』なんて思いつつ、いざドンピシャで隣の席になったら『今のはノーカン。次に隣になったら本当に告白するんだ』と願掛けを修正し直してしまう現象ですね。もうヘタレ中のヘタレです。いっぺん死んだ方がいいでしょうね」


『セガールシミュレーション現象』

「授業中に『学校が突然テロリストの襲撃を受けるが、昼休みに屋上でサボっていたため自分だけは捕捉されず、学校のみんなを救うことを決意した俺はテロリストどもを一人ずつ仕留めてゆく』という妄想に浸ってしまう現象です。悪化してくると『理科室の薬品を調合して爆薬を作る』『ラストは校庭の真ん中でテロの首魁と殴り合いの対決』とより細かいシチュエーションに向かっていきます」


『ミーニングレス・カンスト現象』

「メインストーリーも裏ボスも倒して完全クリアしたRPGなのに、全員のキャラクターレベルを99まで上げなければ気が済まない現象ですね。悪化すると、所持金やアイテムの個数まで最大値にしないと止められなくなくなってしまいます。暇すぎる夏休みなどに起こりがちな現象です」


『スローリードリーマー現象』

「夢の中で走ろうとしても、全然スピードが出ない現象ですね。車のアクセルやブレーキも非常に効きづらくなります。寝ている時は足の裏が地についていないので脳の処理が上手くいかないのだろうという説が一般的です」


『クッキングエンペラー現象』

「男性がふと、年に一度ぐらいの割合で『今日は丸一日かけて本気のカレーを作ってやるぜ』とか思い立ってしまう現象ですね。お金と時間をたっぷり掛けたんだから当然おいしいものが出来るでしょうが、それを毎日短時間で節約して継続できているからこそ、世の奥さんたちは凄いんですよ。くれぐれも思い上がってはいけません」


星白銀の世界スタープラチナワールド現象』

「ふと時計の秒針を見ると、明らかに二秒以上動いていない現象ですね。人体にはまだまだ未知の能力があるので、無意識下で時間を停めているようです」


『ステューピードセービング現象』

「スーパーの精肉コーナーではパック詰めの肉を数円数グラム単位で吟味するのに、最後に並んだレジの途中で買うつもりのなかったどら焼きや饅頭をついついカゴに入れてしまう現象ですね。倹約家を気取るだけ時間の無駄です」


『レモン・オア・ノットレモン現象』

「居酒屋で唐揚げが出てくると、必ず一人は『レモンは絞る派? 絞らない派?』とみんなに訊く人間が出てくる現象です。一見その場は盛り上がる様相を見せますが、それはみんなが『ネットミームに疎い』と思われるのを怖がり、意図的に盛り上がった雰囲気を醸し出しているだけです。本当は、ほとんどの人間が『そんなんどっちゃでもいいわい』と思っています。まったく生産性のない、悲しい現象です」


『グッバイ・マイプレイス現象』

「ずっと通っていたラーメン屋の大将に、ある日『らっしゃい! 今日も味噌チャーシューだね?』だなんて常連客認定された途端に、もうその店には通えなくなってしまうという現象ですね。『名無しのモブ』から『名前つきNPC』に繰り上がることによって発生する責任感に耐え切れず、逃げ出してしまうんです」


そして誰かいなくなれハーリー・モア・キリング現象』

「クローズドサークルミステリの序盤で一度に大勢の登場人物が出てくると『全員の名前覚えるのめんどくさいからさっさと5、6人ぐらい死んでくれねぇかな』と思う現象ですね。脳の記憶力が衰え、キャラ整理がスムーズに行えなくなった中年期ごろに起こりやすい現象です」


『ミッシングタイムキープミーティング現象』

「会議の序盤は探り探りで誰も喋らず『今日は早めに終われそうだな』と思うも、中盤からみんなが徐々に白熱してきて会議が盛り上がり、結局は終了予定時刻を大幅に過ぎてしまう現象ですね。最初からそのペースで話してれば予定通りの時間で終われたのに。無策で社内会議を始める中小企業によく見られる現象です」


『アンネセサリィアラーム現象』

「夜どんな時間に眠りについたとしても、目覚まし時計が鳴りだす5分前にパチッと目が覚めてしまう現象ですね。正確無比な体内時計を持つ優れた人間、もしくは調教されきった哀れな社畜に起こりやすい現象です」


後の先の先の先の先エターナルカウンター現象』

「『最後は自分のターンで終わらないと気が済まない』タイプの二人が口喧嘩を始めてしまった時に起きる現象ですね。捨て台詞に対する捨て台詞が螺旋を結び、無間地獄が顕現します。周りの人々にとっては非常に迷惑な現象です。以前は私と妻の間にも頻繁に起こっていた現象ですね」


武装現象アームドフェノメノン

「それに触れることは死を意味する現象です」


『アスタラビスタベイベー現象』

「車での移動中、前の車が『Baby in the car』のステッカーを貼っているのを見て、『やかましいわ』と呟いてしまう現象です。ねたそねみに満ち溢れた独身男性に起こりがちな現象です」


『イノセントカルクレーション現象』

「お酒を買う時に、味や種類の好みなど度外視して『容量●●㎖×度数■%だから、100円あたり▲㎎で酔えるな……』と純アルコール量換算で計算してしまう現象です。こうなったら完全にアル中です。肝臓の終わりは近いでしょう」


『インスタントラブイズオーバー現象』

「見ているこっちが引くほどイチャイチャしていた二人の関係ほど、見ているこっちが引くほど早く冷めるという現象です。基本的に、出会ってからくっ付くまでが早すぎるカップルに多く起きやすいという傾向があります。お恥ずかしながら、私と妻の間にもこの現象が発生しました」


『エニシングイズノットエニシング現象』

「妻に『お昼ご飯は何にする?』と訊ね、『あたしは何でもいいよ』と言われたので『じゃあ今日は蕎麦そばにしようか』と答えたら、『えっ? 蕎麦……?』と眉をひそめられる現象です。じゃあ最初から『何でもいい』って言うなよ」


『ベリーペインフルサワーグレープ現象』

「アパートで内職をしていると、妻に『隣の部屋の旦那さん、部長代理に昇進したらしいわよ。来月には待望の長男が生まれて、今年の秋には念願のマイホームも建てるんですって。それに比べて……』と言われる現象です」


『ノット・マン・オブ・デスティニー現象』

「妻に『あなたと結婚したのは失敗だった』と言われる現象です」


『デモンズウィスパー・キリングマイワイフ現象』

「悪魔が私に『妻を▲せ』と囁く現象です」


『アイ・ディド・イット現象』

「私は妻を▲しました」


『スウィートアンドサワーポーク現象』

「酢豚にパイナップルを入れる現象です」


『ハッピーハッピーアナザーシング現象』

「嫌なことがあった時、なにか他のことを考えて気を紛らわそうとする現象です。しかし多くの場合、一時しのぎの逃避なので直面している現実問題はまったく解決しません。何が酢豚だ」


『デッドリーワイフ・リブート・オーバー・ザ・マイ・アイズ現象』

「ちゃんと庭に埋めたはずなのに、いつも枕元や視界の隅に立っている現象です。どれだけ失せろと念じても消えてくれない、むしろ意識すればするほど幻影が色濃くなる、恐ろしい現象です……ほ、ほら、そこにも妻が! ああ、窓に、窓に!!」



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「原初田先生、ありがとうございました。突然ですが、次回の『わいわいサイエンス』は放送中止とさせて頂きます。では皆さん、いつか、また……」

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