オオカミ少年 ~Oh, God……~

「大変だ!! おおかみが出たぞー!!」


ある日の夕刻、羊飼いの少年が叫んだ。


村人たちは大慌てで少年のもとに走った。

山奥に棲む狼たちは、餓えると人里に降りてきて羊や作物を喰い散らかしてしまうのだ。せっかく育てたものを横取りされてはたまらない。


しかし、すきや斧を持って駆け付けた村人たちが辺りを見回しても、そこにいるのはいつも通り、たくさんの羊だけ。狼たちの姿はどこにも見当たらない。

「どこだ、狼はどこにいる」

一人が訊ねると、羊飼いの少年はアハハと笑った。

「嘘だよ。狼なんて来ていない。暇だから、みんなをからかってみたのさ」


村人たちは激怒した。狼の来襲は、村にとって深刻な死活問題なのだ。

「ふざけるな。子どもの冗談とはいえ、許されることと許されないことがある」

「ううっ。ごめんよう、ごめんよう」

少年は泣いて謝った。

結果的には何事もなかったのでまあ良かったと、村人たちも怒りを収めてそれぞれの家に帰っていった。



「うわああ大変だあ!!! 今度は本当に狼が出たぞう!!!」

しばらくたった、ある日。羊飼いの少年はまた叫んだ。


すわ一大事。村人たちはまたもや様々な武器を構えて羊たちのもとに向かう。

しかし、やっぱりそこには狼たちの姿はなく、ただ羊たちがのどかに鳴いている。

羊飼いの少年はイヒヒと笑った。

「嘘だよ。今日も暇だったからみんなをからかったんだ」

「ふざけるな。次にやったら殺すぞ」

「ううっ。ごめんよう、ごめんよう」

少年は泣いて謝った。村人たちは苛ついた顔で帰った。



「やっべぇマジ出た!!! 今回だけはガチのマジで狼でた!!!!!」

数日後、また羊飼いの少年は叫んだ。

村人たちは武器を持たずに向かった。

もちろん狼はいなかった。

羊飼いの少年はグヘヘと笑った。

「まあ、こういうのは三回くらいやるのがお約束だからね」

「殺す」

「グヘヘ。ごめんよう、ごめんよう」

少年の謝罪に誠意は無かった。村人たちは無表情で帰った。



そして数日後の夜。

山奥から、本当に狼の大群がやってきた。


「おげええ本当に狼きた!! でっか!! おお!! 何あの顔こっわ!!!」

羊飼いの少年は半狂乱で叫んだが、村人たちはもう来なかった。

「やばいやばい無理無理無理!!! 話つうじないよアレ!!! 何人か殺してる眼だもん!! 誰か助けぎゃああああ!!!!!」

羊飼いの少年は狼の大群に飲み込まれた。



翌朝。村人たちは羊飼いの少年のもとを訪れた。

「ひどい。みんなひどい。なんで誰も助けにきてくれないんだよぅ……」

無数の狼たちの牙で衣服をズタズタに切り裂かれながらも命からがら逃げのびた少年は、ぐすぐすと泣いて恨み言を吐いた。

「お前が嘘ばかりつくから、誰も信じてくれなかったのだ。……それにしても……」


「なっ、なんだよぅ……」

必死で胸や股間を隠す半裸の子どもを前に、村人たちは目の遣り場に困っていた。

「仕方ないだろ。女だってバレたら王様のめかけとしてお城に連れていかれるって、昔から父ちゃんに言われてたんだもん……」


「なるほどのぅ」

その様子を見ていた村の長老が、ぽつりと呟いた。

少年ではなく、少年だったというわけじゃな?」


ふたたび、山奥から狼の大群がやってきた。

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