第21話 首席の実力

オレは片手で指をパキパキと良く鳴らしながら前へと歩く。オレも少しくらいは実力を見せてやらねえと。流石にオレもアイツのあの舐めた態度には腹が立ったんでね。


「あなた、殆ど無傷じゃない………実力もまだ出してなかったの?」

「当たり前だ」


先程までは遊び半分、否、遊び十割である。オレは自分のその時の本気度によってその感覚が違う。つまり、アイツのスピードが速かったってこと。要するにオレはエヴァナスタに対して本気で戦ってなく、ましてや普通にすら戦ったつもりはないというわけだ。


今の氷結だって結局は三割程度も出していない。それであの炎は凍ってしまうのだ。まだまだ魔法の詰めが甘いな。


「おいおい、さっきのエヴァナスタ様の無詠唱魔法も凄かったけど、さっきのアイツの魔法なんて無詠唱なんて次元じゃねーぞ?しかもそれであの威力……」

「私達とはレベルが違いすぎる……」


オレは首を回しながら言う。


「おい、エヴァナスタ。いつまで惚けてるんだ?まだ終わってねえぞ」

「………べ、別に惚けてないわ。貴方を倒すイメージをしていただけよ」

「へー、随分と余裕だな。でもいつまでそんな余裕でいられるか」

「ふん、そう言う貴方もその態度がいつまで取れるかしらねっ!」


すると、彼女の周りに無数に魔方陣が描かれそこから燃える矢が現れる。そして、それをオレに向かって放つ。


矢は勢い良くこちらに飛んでくる。が、それを片手で一つ一つ壊していった。逆の手には剣も握られているので使っても良かったが、ここはあえてだ。


「ん?どうした?そんなヘボ魔法しか打てないのか?」

「!……火球フレアボール炎弓フレイムアロー!」


すると、二つの魔法を同時に発動する。炎弓は先程の打ってきた、オレがヘボ魔法とのたまったものだ。先程の倍はあろう魔方陣が展開され、そこから炎弓、そして火球が現れる。


そういえば、不思議な点が一つある。何故、彼女は炎魔法しか使わないのだろう。アイツもそれなりの実力者、だから他属性を持っていると思っているのだが、只の偏見なのだろうか。まあ、考えるのは後でいいだろう。


「私の魔法をヘボ魔法と言ったこと、後悔しなさい!」


憤怒したようにオレに魔法を放つ。おっと、流石にこの量を処理するのは大変だな。剣を握り直すと剣を魔法に対して振るい始める。

器用に剣を回しながら矢やら火球やらをそれぞれ剣でさばいていく。そして、最後に一本の炎矢が飛んでくるので、それを上から振るった剣で切り裂いた。


今のはかなりの量があった。ここまでの魔法を放てるのはやはり次席の実力だろうか。さっきのヘボ魔法っていうのは只の挑発で実際そこまでそんな風には思ってないんだよね。


無事最後の矢を切ったと思えば今度はエヴァナスタが向かってきた。先程と同じように剣を振るう。しかも剣は未だ炎を纏っている。すると、エヴァナスタは切り出した。


「あなた、どうしてさっきから魔法を使わないのかしら?」

「言っただろ、首席の実力を見せてやるって。だから、圧倒的差を見せつけてやるにはこれがちょうど良いと」

「!!……随分と舐めてるみたいね!」


いや、特大ブーメランだろ。

彼女は剣を大きく振りかぶりオレに振るってきた。しかし、それを二指で挟んで受け止める。

あっち。

挟めるかなと思ったが思いの外、熱くない。むしろ暖かい。彼女は剣を、しかも指で受け止められるとは思わなかったのか、スキが出来た。そこでオレは彼女の額にデコピンをした。すると、勢い良く後ろへと飛んでいった。


空中で回転しながら何とか着地すると、口を開いた。


「………そんなにこの私を舐めているのなら、切り札をみせてあげる」

「切り札?」


つい、言われた言葉にオウム返ししてしまった。


「そう、切り札。私には私しか使えない固有の魔法があるわ。その魔法を貴方に放つ。私の全力よ。だから、貴方も全力をぶつけなさい!」


なるほど。お互いに全力の一撃を放ち、最終的な結果を出すというわけか。まあ、いいだろう。オレもやっと体が温まってきたところだし。


エヴァナスタはその場で目を瞑り詠唱を始める。すると、風が彼女の周りから起こりそして、彼女の体を浮かした。風魔法の応用か。

ん?これで炎魔法以外も使えるって事だよな。やっぱりなんで炎魔法しか攻撃に使わなかったんだ?


そんな思考をオレは上からの熱気に止めざるを得なかった。上を向くと彼女は炎で大きな龍の顔を作り出しており、その炎の熱はこちらにまで来ていた。


あれは………創成魔法は使ってないな。炎魔法の中にとある『炎虎タイガフレイム』という魔法がある。これは只の、つまり複雑な事などない。恐らく彼女の龍もそれの類似したものだろう。


「私の全力、受けてみなさい!炎龍顎門《ドラグヘルバーン》!」


彼女の龍を形作る炎はその大きな顎門を開きオレへと襲いかかる。これ、オレの直感なんだがかなり強力な魔法だよな。さっきメレナさん、殺す類の魔法ダメって言ってませんでした?そして、メレナは何故止めないんですか?色々と貴方への恨みがたまって行きますよ?


さて、オレも全力を!…と行きたい所なんだが、自分は人外なんだ。そこは察してくれ。

オレは向かってくるそれに手を掲げる。そしてある魔法を放った。


すると、彼女の渾身の魔法は刹那にして消えてなくなった。お顔真っ正面から潰れるように消えた龍を見てエヴァナスタは驚かざるを得なかった。


今オレが放った魔法、それは『空気魔法』である。さっきの放った魔法は言わばドラえもんでいう『空気砲~テッテケテッテッテー♪(音楽)』みたいなモノで、圧縮した空気を放ったのだ。かなり抑えたのだが、何とかなって良かった。


「おいエヴァナスタ!それで終わりか!」


オレが声を張り上げてそう言うが、彼女は何も言ってこない。まさか、ショックを受けてしまったのだろうか

すると、突然彼女の体が落下し始めた。


「なっ!ちょっ、おい!」


オレは跳躍し、彼女の体を空中で受け止めた。態勢は言わずもお姫様抱っこである。そこから先程のエヴァナスタが浮いた原理でオレも浮き、ゆっくりと降りていく。


彼女の体は細いモノのしっかりとしており、それでも女性だからか華奢で軽かった。


「おい、大丈夫か?」

「………あの魔法は、使うと反動が起こって三〇分動けないの」

「えっ、そうだったの?」

「そうよ。そんだけ大きな魔法なのに……なんで簡単にそれを消せるのかしら…」

「そんだけまだまだってことだろ。てか、この後も授業あんだろ。後先考えとけよ」

「わ、分かってるわよ。でも全力って言ったじゃない」


そこは本気じゃないとか言えばいいのに、やけに素直な奴。


「と、いうか!なんでお姫様抱っこしてるのよ!このクズ!離しなさい!」

「なんか体をがむしゃらに動かさずにそう言うのってなんかシュールっていうか……面白いな」

「笑うな!」


だって面白いんだもん。

オレはそのままゆっくりと落下し後に着地した。


「勝者はアークヴァンロードで決定だな」


向こうからメレナがやってきた。


「流石は首席と次席って感じだったな。実にレベルの高いモノだった……ってどした?エヴァナスタ?」

「あ、いや、その、私……あの魔法を使うと少しの間動けなくなるんです…」

「オレいつまでこうしてりゃいいの?なんか気恥ずかしいんだけど」

「あ?ならお前の回復魔法で直してやりゃいいだろ」


あっ、その手があったか。オレは彼女の額に人差し指を当てる。すると、緑色の光に包まれた。


「……っし、これでよしと。これで動けると思うぞ」


それを確認するように腕を動かし、動けることを確認すると、彼女は乱暴にオレの腕から降りる。

すると、ゴホンと咳をするとこちらを向いて指を指す。


「こ、今回は私の負けよ。でも、まだ諦めないわよ!」


そういってオレの前から去って行った。なんか、これからと絡まれそうだな。

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