第16話 おいしいとこ、頂きます

メレナは思いっ切り殴り飛ばし、男はすぐの壁に激突、壁が凹むと男は壁から落ち倒れた。


「か……勝った……ぜ……」

「お疲れ」


同時にメレナが背中から倒れるのでオレは颯爽と近くに行き彼女の体を支えた。しかし、倒れるのも無理はないだろう。全身が血やら痣やら何やらの満身創痍の状態だったのだ。よく頑張ったな。

と、励ましの言葉を贈ったが、まだ戦いが終わったわけではなかった。


「……」


倒れていた男は、無言で地面から立ち上がった。その体はメレナと同じく体がボロボロで、先程会心の一撃の入った彼の腹は、黒く焦げたような跡がある。顔を上げると憤怒した顔が映っており、鋭く紅い双眸はこちらを見ている。しかし、先程まで戦っていたメレナがオレの腕で倒れているのを見ると、男は不敵に笑った。


「んだよ………その女……結局は力尽きたか」

「ああ、気絶したよ」


オレは一度メレナのおでこにツンと軽く人差し指で突き、彼女の体を仰向けに倒した。すると、彼女の体は緑の光を発光しそして、みるみると傷が癒えていった。立ち上がり体を魔族の男に向ける。


「一応、なんだがお前は魔族で間違いないのか?」

「あ?ああ、俺ぁ魔族だ」


念のために聞いたが、魔族であることに変わりはないみたいだな。


「んで……どうするんだ?今度はお前が俺とやるか?」

「ああ、そのつもりだ。だか、その前にお前には聞きたいことが一つあるんだ」


メレナは学園長で本質的な頭の良さはあるものの馬鹿だ。また戦闘好きでもあるため普通は聞くべき事を考えていないだろう。そのため、その聞く役は今回、オレが引き受けることにする。その聞きたいこととは単純明快。


「何の用でここに来た?」


何か言えない事情でも、とも思ったが、そういうわけでもなかったらしくスラッと答えてくれた。


「まあ、用つーか何つーかな。ある女を捜しに来たんだよ」

「女?」

「金髪で髪を二つに結ってる身長156位のやつだ。知らねえか?」


知っているか知らないかで言うならば、知っている。もっと具体的に言うならば、見覚えがある、が正しいだろう。その魔族の言う女は、今日見たとある女と共通点が多い。


それは剣術試験の際に目立っていた少女、エヴァナスタ・エピソード……だっけかな。一体彼女がどんな関係があるのか。ここであえて深く詮索してもいいのだが、今回はあえて引いておく。


「いや、知らないな」

「そうかい」


そういって唾を吐くかの様にに舌を出す。

さて、楽しいお話し合いはここまでだ。メレナの分も頑張るか。

というか、おいしいとこ、頂きます。


「んじゃ、そろそろ始めるか」

「お前がその気ならそれで良いぜ。だが、向こうの女はどうすんだ?」


言ってきたその女とは言わずもローナ姉さんの事だろう。というか、ごめん、姉さんの事忘れてた。まあ、放置でいいか。


「気にしなくていい。そういうお前も、傷を治さなくていいのか?」

「お前みたいな雑魚の為に回復するつもりはねえよ」

「へぇー」


そりゃ凄い自信だな。


「じゃあ、始めるぞ」

「お───」


男が反応する前にオレは相手に瞬足で近付いていき、右腕に蹴りを入れる。男は反応が出来ずガードをしていないため、腕の骨がメキメキと音を鳴らす。そのまま蹴り飛ばすと地面を転がり、そこから姿勢を直すと男は地面に手をつける。


すると、前に魔方陣が二つに現れそこからいつぞやに見たことのある狼と巨大なゴリラのようなモンスターが現れる。一体何のつもりだ?

一瞬そう考えもしたが、そのモンスターの隙間から見えた男の行動から全てを理解した。 


彼の体は緑色に包まれている。つまり回復しているのだ。恐らく、オレを相手にするのに回復は必要不可欠だと考えたのだろう。その為の時間稼ぎにこの二体を召喚したのだ。でも、それも意味がねえんだよな。


オレは鞘から剣を抜くと、加速魔法で自身の速度を上げる。そして、まずゴリラのモンスターに近付き股に剣を刺し、そこから胸元にかけて切り上げた。その後空を蹴り、次に狼の首を斬る。そして地面にしゃがむと、そこから更に加速し一瞬で男の前に立った。


「っ!?なっ!?」


オレは男の無防備な胸に手を当てると、呟くように言った。


炎砲フレアバスター


すると、掌から大砲と言わんばかりのドォン!と音を出しながら獄炎を発した。その炎は男の心臓部分を燃やし、そして彼の背中から溢れ出るように紅いそれが吹き出した。後に、男は膝をついて、そして倒れた。


炎の火力をいくらか強くして大砲の如く打ったとはいえ、ここまでの威力が出るとは思いもしなかった。ますます自分のチートッぷりには驚く、いや、呆れる。


さて、兎にも角にもこれで魔族は倒し、オレがしっかりと美味しいところを頂いたな、そんな風に思っていたのだが、魔族とは意外にしぶといものだ。心臓を燃やしたと言うにも関わらず、この男はあろう事か膝をついてはいるものの倒れた体を上げていた。


「………魔族って凄いな。心臓がなくても生きられるのかよ」

「………お前………なんだ…その実力は……」

「内緒」


転生者って言ってもこちらに得はねえからな。


「あ、言っとくけど回復しても良いぞ。その瞬間首飛ばすから」

「………それはねえな。……俺ぁ敗者だ」


どうやら自分は負けたという事をしっかりと受け止めているようだ。なんか意外。


「……だが、最後に………言っておくぜ……」

「?」

「……………もうすぐ……魔王様が…復活する………これまで以上にないほどに強い……首を洗って……待ってろ……」


そう言い残して、彼は先程のようにバタリと倒れた。魔王か。RPG冒険ゲームとかでラスボスで有名なアイツか。物語は始まったばかりだと言うのに、全くせっかちなものである。 


「おい、アーク!大丈夫か!」


すると、放置していたローナ姉さんがオレの元へと駆け足で寄ってきた。


「魔族と戦って勝ったのか…流石としかいいようがないな」

「あ、でもメレナが倒した事にしておいてくれ」

「?何故だ?」

「なんか色々と面倒臭そうだから」


クズの名を返上したるわ!と自分で意気込んではいるものの、オレが魔族を倒したと言われても信じる奴など、そうそういないだろう。焦らずゆっくりと。これが大事だ。

ローナ姉さんは良く分からないといった顔を保ったまま「そうか」と頷いた。まあ、他の後処理は大人方に任せるとしよう。

兎に角、一件落着。

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