お月さまと盗人

作者 織姫

55

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★★★ Excellent!!!

むかしむかしのお話の、随分あとの後日談。

第一話目、プロローグのように流れるおとぎ話。
第二話目、語り口も変わり、明らかな転調があります。
物語はおとぎ話のエッセンスを引き継いで、独立した形で始まるのかな? そう思いました。しかし甘かった。

なんとこのお話、繋がっています。

世界観はおとぎ話そのままに、ストーリーもしっかり繋がっているのです。なのに小説。
ファンタジーの短編小説として確立しているんです。
じゃあやっぱり一話目のはただプロローグで切り離されているんじゃんって思うかも知れないですが、違うんですよ。
おとぎ話と小説が、違和感なく同じ世界観と同じ軸で紡がれているんです。

「こんなことできるのかよ」

と、私が同じ創作家としてリアル過ぎる呟きとため息を吐いたのは、想像に難くないでしょう。

ちなみに、このことについて言及している人が、コメント欄を見ても少ないのは、それほど違和感なく紡いだからだと確信しています。

ここに完成されたワールドがあります。
でも完成されているからこそ、その先に思いを馳せる楽しさがあります。
私はこの物語の決着がついた後、物凄く妄想をしました。
このあともしかしたらああなって、こうなって、そんなことが起きるかもしれない……なんて。

無粋かな……いえいえ、これはもうこの作品を読んだ読者の特権だと思います。
作者様が創ってくれたこの世界、その続きを妄想したらとても楽しいです。なにせ私には創れない世界ですから。
さあ、あなたも楽しく妄想しましょう!

だからそのために、ちょっとそこまで、月を盗みに行きませんか?

★★★ Excellent!!!

作品全体が纏っている淡い雰囲気に惹きつけられました。

この作品の最大の特徴は描写力にあると思います。
この作品、物語の中で起こっている出来事が目の前で浮かびます。それだけでも、凄いんですがもっと凄い事があります。
その情景に全て、薄い霧がかかっているんです。ぼんやり霞んでる世界を、登場人物たちは、動き回っています。

最初は何故だろう、と思いました。表現や構成など全てにおいて儚い感じはしました。でも、それ以上の何かがあるんです。
正体がわからないまま読み進めましたが、ラストシーンでその謎は解けました。
世界が世界に侵食していたんです。
“物語”にすぎない世界がそれを超えて、読み手である私の“想像”に侵食していたんです。
ネタバレに関することなので、詳しくは言えませんが、薄い霧のような儚さを想像世界にさえ、及ぼす力があったのです。

その証拠に、最後の1話は薄い霧がとれて鮮明な世界が見えました。
最後の締めの言葉で、私ははっとしました。

少年が照らしていたもの。
少女が照らしているもの。

その違いが、想像の違いにはっきりと出たんだと思いました。

読んで損はしません。
是非、少年が照らしていたもの、少女が照らしているものを見に行きませんか?

★★★ Excellent!!!

むかしむかし。
お月様は盗人にさらわれてしまいました。
それからというもの、この世の夜は闇に染まってしまって……。

という幻想的なはじまりを見せる本作。
舞台となるのは、誰も訪れないさびれた塔。
主人公の少年――皓月はこの塔に『あるもの』を得に忍びこみます。
この作品はとにかく情景と場景、両者の雰囲気づくりが抜群にうまいのです!
塔の内部はもちろん、塔のてっぺんからの視界は読者の心にありありと描かれます。そこから見える、闇と闇と闇。だけどぽわりんと一条の光。『おとぎ話』の語り口が途中に挟まれることにより、その幻想性がいっそう高まります。夢を見ているような心地にさせられる物語です。
第一話から最後まで、間断なく絵を描き続けることができました。塔の内部の石壁もイメージできました。皓月はどんな道のりで、どんな旅支度でこの塔にやってきたのか。道中一人で、なにを夢見ていたのか。そんな、作中に書かれていないことも想像することができます。

そしてラストシーンがものすごくいい。
わたしはこのラストを『遠近法を失ったラスト』と名付けました。
近いようで遠く、遠いようで近い。
遠近を失った愛はつまり、永遠と称しても過言ではないでしょう。