お月さまと盗人

織姫

マスターシーフとお月さま


 むかしむかしのこと。



 この世界には夜になるとそれはそれは美しく輝く、大きなお月さまがお空に浮かんでいました。お月さまの放つ光に照らされて、周りの星達もきらきらと輝いています。


 夜の暗闇に怯える人々や星達にとって、お月さまは世界を優しく照らし出す光だったのです。



 そんなお月さまを、密かに狙う男が一人いました。彼はこの世界で盗めない物はなにもないと言われ、マスターシーフと呼ばれていた大盗賊でした。美しいお月さまを独り占めにしたいと考えたのです。



 けれど、お月さまは高いお空に浮かんでいて男の手は届きません。そこで男は、高い高い塔を建てることにしました。高い塔を造り上げた男は、塔のてっぺんからお月さまへと長い長いロープを投げてひっかけると、ついにお空からお月さまを落っことし、独り占めすることに成功したのでした。



 男はお空から盗んだお月さまを失くなってしまわぬよう、塔の一番下の牢屋へと閉じ込めました。


 お空からお月さまの優しい光は消え、前も見えぬほどの深い深い闇夜が世界を包み込みました。そばで輝いていた星達も光を失い、隠れてしまいました。



 そしてお月さまが盗まれてから果てしない時が流れ、マスターシーフ亡き後も、彼が造り上げた塔の一番下の牢屋の中でお月さまが閉じ込められているのです。



 誰も見つけたことのない世界一高い塔の一番下で、お月さまは今もずっと、お空に返してくれる誰かを待ち続けているのでしょう。


 またお空に上り、美しく輝くことを夢見ながら。

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