最後には爆発だ

 


 油断をしたつもりはなかった。

 視線を逸らしてもいないし、緊張感を途切れさせてもいない。

 それでも気づけたのは、ルシルの目つきが鋭くなったことだけ。


「え?」


 とつぜん、ルシルの身体が粒子に包まれた。

 光そのものに変化をしたと思ったら、ぼくの目の前に現れて……。

 無数の光弾を、ぼくの全身に撃ち込んだ。


「……くっ」

「まだですよ!」


 小石ほどの大きさなのに、全てが骨を砕きそうな威力を持つ。

 千を超える攻撃は、全てが致命傷を与えるほどに。

 マルっころの魔力を防御に回し、身体が動く程度のダメ―ジに抑える。

 代わりに、星の魔力は一割以上が減らされた。


「まだ終わりませんよ!!」


 連鎖は止まらない。光は光を生み、千を超える攻撃は万を超える攻撃に。

 ぼくは一切の身動きが取れないので、ルシルの顔を見つめてしまう。

 そこには愉悦が浮かんでいた。人を傷つける喜び、自分が優れている優越感。

 らしくもないけど、人間らしいものだと思えた。


「ははっ、頑丈ですね。でも、もう限界ですよ」

「……」

「その顔が見たかったんですよ、ムゲンくんの無表情を崩したかった。ようやく私を見てくれた、その瞳は私を映している!!」


 感情に比例するように、光の球は無数に増えていく。

 ルシルの顔も、もっと歪んでいく。醜悪で人間らしい顔が美しい。

 どんどんと減っていく地球の魔力は、気にならない。

 そんなことよりも、反撃の糸口が欲しい。このラッシュは、抜けられない。


「満足か?」

「なにがですか!」

「魔法で殴って満足か? その手足は、なんのためにある?」


 意識して見下す表情を作る。その瞳には、冷たさを宿すのだ。

 効果は劇的で、一瞬で頭に血を昇らせたルシルは、割り込むように殴りかかる。

 その一撃は何よりも重く、殴られた右頬がこの世から消えたと錯覚するほどだ。

 でも……。


「人を殴り慣れてないな。捕まえるのは簡単だ」


 どれだけ優れた魔法使いでも、ケンカの一つもしていないのがよくわかった。

 腕を掴み、動きを止めたところを狙う。

 星の魔力を爆発的に燃やすと、その勢いを使いルシルを弾き飛ばした。


「お返しだ」


 意趣返しのために、ルシルの周囲の空気を硬質化させた。

 上下左右から空気の散弾をぶつける。球の大きさは更に小さく、飴玉を連想した。

 万なんてものじゃない。億や兆の攻撃を、永遠に続けと連鎖させた。


「お前の方こそ、顔が歪みだしたぞ。このまま終われ!」


 攻撃の豪雨は止まない。一撃の威力は、頬に小さな傷が出来る程度。

 それでも続く攻撃は、ルシルの心を削っていく。


「きりがないな」


 いい加減に飽きてきた。マルっころの魔力も半分を切っただろう。


「大技が欲しい」

『ならば、想像することだ』


 具体的に協力する気はないと。それなら、こんなのはどうだろう。


「この星を爆発させるのはどうだ? それ以上の威力はないだろう」

『アナタも滅びるが。宇宙空間で生きていけるのか?」


 星の魔力や生命力をエネルギーに変えて、爆発させる。これが最高だと思うのだが、簡単に却下された。

 宇宙で生きていけるのか、それは無理だと思う。

 でも先にルシルが終わればいい。一瞬でも長く保てば、それで勝利だ。

 勝算を考えていると、冷たくて無機質な声がぼくを止める。


『やめるべきだ。その手段には協力できない。まだ時間はある、他の手段を模索せよ』

「とはいっても、自爆技より強いものがあるのか? 教えてくれ」

『ないだろう。身を切る行動が、最も威力を出せる。だが見合わない行動は、自らを破滅させるだけだ』

「……そうか、わかったよ」


 最高の威力が出せると、暗に認めたわけだ。

 よし決めた。ギリギリまで何も考えないようにして、トドメで自爆させよう。

 数秒ほど形を保てる力を残して、他の全ては攻撃の威力に回そう。


『それそろ時間だ。方針は決めたか?』

「ああ」


 ルシルを足止めする攻撃は、徐々に勢いを落としていく。

 込めていた魔力が終わり、魔法が止まる。その前にルシルが、怒りと共に吹き飛ばした。

 周囲に浮かんでいた球体たちが勢いよく周りだし、その全てが強烈な力を発している。

 その力に耐えられず、また一つ壊れたようだ。


「やってくれましたね、ムゲンくん。性格が悪いですよ、意趣返しをするなんて!」

「そうか」


 知ったことじゃない。有効ならどんな攻撃でもアリだ。

 ルシルと会話しながら、繊細に集中をする。

 爆発の全てをルシルに向ける、その凝縮でぼくの生存が決まる。


「……最後まで私に興味がないんですか? ムゲンくんは」

「しつこい」


 見るだ見ないだと面倒だ。瞳に映す以上に、何が必要なんだ。


「泣き言は十分だ。無理なものは無理、いい加減に理解しろよ」

「……そうですか」


 ぼくの言葉でルシルの魔力が立ち昇る。ようやく本気を出す覚悟を決めたようだ。


「人は人を映さない。その心に浮かぶのは、いつだって自分だけだろう」


 人間はみんなそう出来ている、誰だってそうだ。

 他者の中に自分が映るから、優しくできる。他者の中に自分が映るから、嫌いになる。

 いいことでもあり、悪いことでもあるけど。それが本質だ。


「そうかもしれません。……でもその後に、ちゃんと他人を想えるようになる。それが人間でしょう?」


 ルシルの言葉は正しい。

 他者に自分を見て、その後に違うものに目を向ける。自分と他人は違うのだから、その違和感に惹きつけられるものだ。


「そうだな。でも、ぼくの目には何も映らない。それを悲しいと思えたら、幸せだったのにな」


 話は終わりだと、ぼくとルシルは最後の準備をする。これが最後の一撃になるだろう。

 全ての魔力を集めて、星を爆発させる覚悟を決める。

 最後までルシルとは、会話が嚙み合わなかったが仕方ない。

 出来ることは出来るけど、出来ないことは出来ない。これはただそれだけの、ありきたりな話だ。

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