遊びに行こう!
あれから、三日が経った。その間のぼくには、それなりに意味があった。
エキトの哀れさに気圧されて、店の掃除や散らばった魔道具の回収。ありていに言って、雑用の日々を送っていたのだ。
これが案外悪くなくて、のんびりと生きるのは肌にあう。それでも飽きてきてしまった。
一つだけ意外だったのは……。
「簡単に許可が出たなあ」
フェリエたちのことだ。サクリの代わりに人質に取られているのに、監視一つで自由行動が許された。
よほど信用されたのか、悪意と言うものを知らないのか。……前者かな。
まったく、こんな奴を信用しないほうがいいのに。
「それじゃ、また」
「ああ。今までありがとう」
笑顔のエキトと、バイト料をもらったぼく。
お詫びのようなものだったのに、報酬が入って満足だ。またトワにおごってやるか。
★
「なんだ、この空気は?」
フェリエの別荘に戻ってみると、明らかに空気がよどんでいる。魔法によるものではないみたいだけど、嫌な空気で中に入りたくない。
そんな気持ちを無視して中に踏み込むと、早速ファングに見つかった。
「おう、帰ったか」
「ああ、退屈で楽しい日々だったよ」
なんだそれはと、苦笑される。いつもの態度に、違和感が薄れていくけど。
「ようやく戻ったか。無事でよかった」
続いて現れたフェリエのせいで、違和感が増した。
「お、おう。悪いが、おれっちは用があってな。土産話は、こいつにしてやれよ」
などとたどたどしいことを口にして、ファングがどこかに行ってしまう。
「……ここではなんだ。リビング、いや僕の部屋に行こう」
フェリエは返事も聞かずに、自室に行ってしまった。うーん、用意されている部屋で寝たい。疲れているのに。
文句を押しとどめて後を続き、ぼくの部屋より遥かに大きい一室に辿り着く。
その中は質素なものだが、遊び道具や本棚もあり、真面目な学生の部屋と言えた。
「最近、みんなの様子がおかしいんだ」
椅子とベッドに座り、話をする態勢を整える。すると、フェリエの相談が始まった。
おかしな話だ、ぼくの土産話が聞きたいのでは?
「おかしいって?」
「挙動不審と言うか、少し避けられている気がする。不思議に思って問いかけてみると、なんでもないと顔を逸らすんだ」
そんなことを言われても困る。心当たりなんて、一つもない。
「反抗期なんだよ」
「とっくに終わっている! 子ども扱いをするんじゃない」
永遠に反抗期でもいいと思うが。魔法使いなんて、そんな奴ばかりだぞ。
「何か心当たりはないか? 無限がいなくなった辺りから、みんなが変わってしまったんだ」
「ない」
「出かける前に、何かを話したとか。あるいは、何かを聞いたとかは?」
そんなことを言われても困るんだよな、昨日のことだって覚えていないのに。
「そうだなあ」
深く思い出してみるが、なにもわからない。
……でもない。そうだ、そういえば。
「あー」
「なんだ、何かあるのか!?」
なにかは、あった。
確かフェリエに隠し事をしていて、心苦しいとか。ぼくが罪悪感を刺激して、それを増幅したんだっけ。
他人の話なんて、家族の生き死にぐらいどうでもいいので、すっかり忘れていた。
つまりなんだ、フェリエには悪いところがないということだ。
「気にしなくてもいいさ、そのうち戻る」
「気にするだろう!? こんなことは初めてなんだ。みんなが、あんな態度をとるなんて……」
そう言われても困る。細かいなんて覚えていないし、覚えていないと言うことは、どうでもいいことだったんだろう。
少なくても、命に関わることじゃない。
つまり、必要なのは現実を忘れる事。気分転換だ。
「なあフェリエ、ダンジョンにでも行かないか?」
「なにを急に、話を逸らすんじゃない!!」
そう言われても。
「話を逸らしてなんていないさ。でもわからないものはわからないし、知らないものは知らない」
思い出せないものは、どれだけ頑張っても思い出せないのだ。
「だったら過去にこだわるのは、つまらないことだ。ここは、気分転換に遊びに行こうじゃないか」
「露骨に話を変えて……。なんでダンジョンなんだ?」
少しだけ話に乗ってきた、諦めたようにも見える。
「フィアたちはダンジョンに潜って、成果を上げている。ぼくたちも同じことをしてみよう」
「しかし、それには意味がないだろう。二番煎じでは、効果が薄い」
「お前は難しく考えすぎだよ、遊びに行くんだって」
遊びに理屈なんて必要ないし、利益なんてもってのほかだ。
大統領の魔法を覚えるために、魔物をたくさん斬る必要があるし。ついでにノルマをこなすために、こいつらに協力してもらおう。
「ああ、わかった。悩みすぎても仕方がないし、今日はオフとして遊びに行こう!」
フェリエも吹っ切れたらしい、今日のスケジュールは全て白紙に戻した。取り返しがつくのかは不安だが、まあ他人事だしどうでもいい。
ぼくは何も気にせずに、何も考えず遊ぶことにした。ノルマは勝手に達成しているだろうさ。
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