有名人

 


 今回のパーティーは男だけなので、トワを入れる気はないと無理やり追い返す。


 不服な顔で、それならエキトたちに八つ当たりをすると宣言して、どこかに行ったのだが。その姿には、正直不安を覚える……。


「まあいいや。自分たちでなんとかしてくれ」


 街を歩いていると、わかることもある。ここも普通の人間と、魔法使いが共存している。


 文化レベルは高くない。普通の街に、魔法使いが住んでいると言ってもいいだろう。


 街によって、本当に違う。全てのものに魔道具が使われている街で、普通の人間が暮らしていたりもするのだ。


 色々な工夫をされて、みんな不自由なく生活している様子を見ると。本当に、優しい世界だと思う。


「おっ」


 屋上から街並みを見渡していると、見覚えがある車が道路を走っている。空を飛ぶだけではなく、普通に走ることも出来るみたいだ。


 ぼくは飛び降りると、きっちりと誰もいない歩道に着地する。見られていないので、騒ぎになることもない。


 近くに来た車に手を振ると、停めてくれたので乗り込む。


「やあ、助かった。退屈していたんだ」


 見るべきものを見たし、話すべきことも話した。このまま別荘に戻るのは、もったいないと思っていたんだ。


「よく見つけたな。何をやっていたんだ?」


 大型の車の中には、フェリエたちが勢ぞろい。何をやっていたかと言えば。


「ビルの屋上で、景色を眺めていたんだ。この車が見えたから、飛び降りて待っていたよ」

「はっ。その冗談はつまらないぞ。屋上から飛び降りて、無事で済むわけがない」


 フェリエは鼻で笑うが、嘘なんてついていない。だが無事とは言い難い、足がしびれたからな。


「お前たちは?」

「支援者の一人と、会談を終えたところだ。これからも協力を、約束してくれた」

「あと数人は、顔を見せに回るんだぜ。ついてくるか?」


 それは、楽しそうだ。



 ★



 あいさつ回りを終えると、もう夜になっていた。


 フェリエはよっぽど重要な人物なのか。ぼくを含めたメンバーの全員が紹介され、会話をすることもあったぐらいだ。


「おかしいだろ!? なんでみんなお前のことを知っているんだよ!」


 ファングの叫びがやかましいが。それが今回の、一番面白いところだ。


「情報が回っていたんだろうな。いやあ、世の中は狭いね」


 フェリエが回ったところは魔法協会の支部や、有力な商会。あとは市長の所だ。


 みんながみんな、ぼくのことを知っていた。


 魔法協会は、学院長。商会は、エキトかその父親だな。


 どいつもこいつも、ぼくのことを家族扱いするので。何らかの形で、紹介していてもおかしくはない。


 魔法協会では宝物のように扱われたし。商会では新しい家族の一員だと言われた。エキトの所は、一族で経営しているからな。


「困ったら、なんでも言ってくれじゃと。仮のメンバーじゃからな、若は断っておったが」

「当然だろう。虎の威を借りる気はないんだ。それにしても、無限を味方にすれば大統領に成ることは簡単だろうな」


 フェリエが鋭い目で、ぼくを見ている。


 その評価は正しいな。世界の流通を支配する大商会と、世界の全てを力で支配する魔法政府。


 それらが逆らえない絶対的な奴らが、ぼくのことを家族だと言っているのだから。


「大丈夫だよ、ぼくはどちらにも協力する気はない。関係ない話だからな」


 理事長もエキトの父親も、ぼくには関係がない。協力する気もないし、協力してもらう気もない。


 必要なら、自分で動くからだ。


「……なるほど。フィアの仲間でありながら、必要以上に協力する気はないと。深く信頼をしているんだな」

「全くだぜ。あんなすげえ奴らの協力がなくても、自分のリーダーが負けるわけがないってか」

「ワシらも負けてはおれんぞ。もっと努力せねばな」


 メディも深く頷き、四人は凄いやる気を見せている。


 なんだか、また誤解をされているようだ。もっと直接的に言うべきだな。


「ぼくはフィアの味方じゃないよ。あいつが勝とうが負けようが、関係はない。フェリエが勝っても構わないさ、強く優秀な方が上に立つべきだからな」


 無能が上に立つのが、一番の不幸につながる。フェリエの方が優秀で、国民を幸せに出来るならそれが正しい。


「友人よりも、仲間よりも、無辜の民の方が大事か。……フィアも、いい仲間を持ったようだ」

「そうじゃな、なかなか言えないセリフじゃよ。普通は身近な者より、大切なものなどないからの」

「お前らより、よっぽど上に立つべき人間かもな」


 頭がおかしい奴らが、またも見当はずれなことを言いながら、笑っている。


 こいつらに言葉は通じない。近くにいる者、いつも傍にいる者は、全て仲間や友人と思っているらしい。


 もう全て諦めることにする。それと、出来るだけ距離を置こう。


 時間がたって、仲間だと勘違いされたくはないからな。面倒なことになりそうだ。

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