入り乱れた戦い
恐ろしいことをしでかしたトワに、全員が引いていると、敵の一人が行動を始めた。
「どいつもこいつも、ビビってんじゃねえぞ!」
言葉を発したのは、本を持った魔法使い。とても戦いに向いた姿には見えないが、好戦的な姿勢が心地よい。
分厚い本が光を発し、ページがペラペラと捲れている。
「いいぜ、おれっちが暴れさせてやるよ。百十二ページ、乱世の戦場!」
叫びと共に、地面の下を力が走った感覚がした。周囲に視線を巡らせると、風景の全てが変わっている。
一面の荒野と、ぼくたちを中心にして直径一キロほどの光の円が出来ている。
そのラインを越えたらどうなるか、考えたくもないな。
「この魔法はバトルフィールドを作るだけだ。だが魔力の向上と、戦いを強制するがな!」
ぼくは何も感じていないが、他の人間はそうじゃない。
体の変化に驚きと、頭を抱えて狼狽えている奴もいる。
「や、やめろ。魔法を解除するんだ、ファング! こんな戦いは望んでいない、正々堂々と戦うべきだ」
「別に卑怯なことはしてねえだろうが。本当ならリーダーのアンタが、もっと積極的になるべきだ。おれっちは背中を押しただけだろう」
ファングとやらは、不甲斐ないリーダーのために行動を起こしたと言いたいらしい。
「おれっちは戦いを求めて、アンタについて来たんだぜ。失望させんなよ、お……」
話が長くなりそうだったが、その言葉は突然止まってしまう。
その理由は簡単で、攻撃を受けたからだ。
「御託はもういいです。戦うなら早くしましょうよ、時間の無駄ですから」
誰かと思えば、流石のフルーツである。本当に好戦的な人形だ。
「ノリがいい奴は嫌いじゃねえぜ。名乗りな、嬢ちゃん」
「必要ありませんよ、敵と馴れ合う気はないので!」
誰か助けて、この人形をどうにかしてくれ。
これからも傍にいるだろうことに絶望していると、今度は斧使いの様子がおかしい。
「敵は、倒す。フェリエの敵は、滅べ」
うわごとのようにブツブツと呟いて、武器を振り回しながらこちらに視線を向けている。
「仕方ありませんわね。ワタクシが相手をしますわ」
つぼみが見えないほどに細い剣を抜き放ち、その切っ先を斧使いに向ける。
「出来る事なら、品性を持たない相手と戦いたくありませんわ。理性を取り戻してくれませんこと?」
「いらない、そんなものはいらない。敵は、敵は消え失せろ!」
つぼみの言葉など届くわけもなく、巨大な斧を振り下ろす。
二人の差が果てしない。打ち合いになったら、勝負にもならないと思う。
この対決は興味深いが、他にも注目するカードがある。
「本意ではないが、受け入れよう。みんなボクのことを思っての行動だからな」
「……理不尽でありますな。自分たちは、まだ勝負を受け入れると言っていないのに」
フィアとフェリエの戦いだけは、初めから決められた組み合わせだ。
実際に戦ってみたら、どちらが強いのだろうか。
「そこは謝罪しよう、心から。何らかの賠償をしろというのなら、受け入れてもいい。だが……」
一応は自分たちに非があると、分かっているらしい。ま、最初から味方を止めていたしな。
「それでもこの気持ちは抑えられない。ボクは誰にも劣ってはいない。誰も彼もが、フィアを上だとみなす。直接戦ったこともないのに、だ」
「……それは」
「魔力の量も、実績も。血筋すらも証拠にはならない。相応しいのはボクで、全ての国民を導いて見せる。……そうでなければ、みんなが不幸になってしまうからだ!」
こうして二人の戦いが始まった。
自分以外では不幸が訪れてしまう。思い込みにしか思えないが、フェリエなりの根拠があるのだろう。
その言葉が正しいかはわからない。間違っているのかもしれない。
一つだけ言えるとしたら、どれだけ高尚な理想があっても現実の前には粉砕されると言うことだ。
★
最後の一人に目を向ける。武器を持たない少年は、しっかりと理性を残しているらしい。
もしかしてだが、ぼくが相手をするのだろうか。
「トワが戦うだろう?」
「あはっ。いやいや、それはないよ。あたしはもう、一人倒したからね」
確かに倒したが、戦ってはいないだろうが。
「大丈夫だよ、むげんなら勝てるからね。頑張って」
無責任な言葉は無視しておこう。トワが勝てると言うなら、その通りかもしれないが。
怪我をしないとは言われていない。痛い思いは嫌なのだが。
ここは対話から始めよう。なんとかなるかもしれない。
「理性があるようだから質問するが、戦うのを止めてお喋りでもしないか?」
「……敵と何を話せと」
会話は通じるらしい、理性が残っているのは間違いないからな。
「なんでもいいさ、みんなが終わるまでゆっくりしよう」
「……お断りします」
武器を持っていないので、両手を握り締めて拳を固めている。
「恨みはありませんが、主の言葉には逆らえません。フェリエ様こそ国を導くに相応しいと、ソレガシが示す必要があるのです」
こいつが一番、忠誠心を持っているらしい。ハズレを引いたかもしれない。
よし、早く負けて気絶することにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます