乱入者
攻撃が止まらなくて、痛みが止まることもないはずなのに。ズキズキと痛む体が、少しだけ楽になってきた気がする。
これならもう少しだけ、あと少しだけ耐えられると、やせ我慢が出来る。
願わくばこの勘違いが、少しでも長く続くことを。
「ここまでだな」
「……あ?」
不思議な言葉と共に、体中に響く振動が止んだ。
視界が真っ赤に染まっているので、何も見えない。命取りと思いながらも、両目を拭ってしまった。
「どういうつもりだ?」
ようやく見えた視界には、ため息を吐きながら力を抜いているオーガの姿が。
これだけ痛い目に遭わせてくれたのに、突然止めるとはどういう了見だ。
「キサマハ、勇気を示した。勇者には、敬意を払わねばなるまい。……この場は見逃してやる、消えるがいい」
突然の言葉は、命が長らえた証拠。この化け物は、慈悲を示したのだ。
「ふざけるなよ、そんな筋合いはない。こっちには勝算があったんだ、続けるぞ!」
見逃されるつもりは、ない。こいつに勝って、堂々と地上に戻るんだ。
もう少し、もう少しだけ時間を稼げば勝てるのだから。
「好戦的には見えないが? ……仲間を見捨ててでも、戦うと言うのか?」
「それでもいいが、勝てば見捨てる事にはならないだろう。戦いに興味はないけど、負ける気もない」
呆れたような言葉を掛けるオーガに、強い反論をしてしまう。
やる気の問題なのか、体も軽くなってきた気がする。全身がボロボロでも、他の奴らが気絶していても勝ち目はあるのだから。
「ぼくは勝てる。そしてお前は負けるんだよ」
「ならば、キサマノ勝利だ。ワレハもう、戦う気はない。殺すなら、殺すがいい」
無抵抗なオーガの姿。殺せるのなら殺してやりたいが……。
ぼくはそのままオーガを両断するように、力づくで斬りつける。
「……ほら、無理だよ」
オーガの強度に耐えきれず、借りている剣は木っ端みじんに砕け散った。
敵の攻撃を受け流すことは出来ても、自分の攻撃で身を滅ぼす。どこまでいっても、ぼくは魔力を持つ存在に勝てないのであった。
「無抵抗な相手に、トドメを刺すことも出来ない。……まあ、引き分けだな」
「そういうことだ。戦う気がないワレト、殺す手段がないキサマデは決着がつかん」
不本意だがその通りだ。
続けていれば勝てたと思うが、落としどころとしては丁度いい。
体が痛いし、フルーツたちが死にそうだからなあ。
「楽しくなってきたのに、残念だ」
ゆっくりと歩いてフルーツの近くに寄っていく、意識はないようだが死んではいないらしい。
三人も背負って外に出るのか? 疲れそうだ。
「最後に聞きたいことがある」
その言葉に振り替えると、真面目な顔をしたオーガの姿が。
「なぜ、ワレト戦った? 魔力のないものに、戦う資格などはない。普通の人間ではないようだが、勘違いをするほどに愚かではあるまい」
まあ、その通りだ。一人で勝てるとは、思っていなかった。
でも戦わなければ、三人は死んでいただろう。綺麗な言葉を使えば、生命を守るために戦ったのだ。
「そこにしか勝ち目がなかったからな。逃げることが出来ず、戦うことが出来なかったから。ぼくは時間を稼いでいたんだ」
それが唯一の生存の道。誰かが助けに来ると思っていた。
もし誰も助けに来なくても、間違いなく同じ道を選んだと思うが。
「……そうか。無力で無謀な存在がワレニ挑む姿に、心からの畏怖と尊い勇気を感じたよ。また挑むに来るといい、いつでも挑戦を受けるとしよう」
もう来ることはないと思うが。
もっと困難なダンジョン、もっと最悪なダンジョンに挑まなければならない。
引き分けに終わったが、このダンジョンは力試しに過ぎないのだから。
……でも、そんなことを伝える必要はないと。
「jyAaaaaaAA!!」
初めての冒険が終わりかけた時、全員が生存して地上に戻るときに。
その希望を刈り取るような、低く暗い叫び声が聞こえてきた。
「GYAAAaaaaaaaaU!!」
その声の主は、上から落ちてきた。目的はぼくだろう、その視線はぼくを捉えて離さない。
その正体は語るまでもない。前に逃げられてしまった、壊れた騎士だ。
抵抗をしたいが、剣は砕けてしまったのだ。フルーツを見捨てて、フィアの近くに駆け寄る。体が痛いなんて言ってられない。
「SSSsssIiiiii!」
「間一髪だな」
落ちていたフィアの剣で、壊れた騎士の一撃を受け止める。
とりあえず死ぬことはなかったが、あまりの痛みで壊れてしまいそう。
「……困ったな」
上手く受け流すことも出来ない。まだ生きていることが不思議だが、ぼくを殺す気があるのかないのか。
魔力が目的らしいが、殺して奪うつもりなのか。
「やめろ」
見えない背後から、何らかの一撃が飛んできた。ぼくをすり抜けて壊れた騎士を吹き飛ばすが、決してぼくを守る攻撃ではない。
「キサマラの因縁に、口を出す気はない。たとえ勇者だとしても、他の危機から助ける気はないのだ」
自分は見逃すと言うだけ。味方になったわけではなく、助けるなんて有り得ないのだと。
認めようが、敬意を表そうが、それはまた別の話。弱肉強食に口を出す気はないのだと。
「だが、ここはワレノダンジョンだ。冒険者同士の戦いなど、醜いだけだ。戦う気があるのなら、ワレニ挑め!」
その言葉には矜持が満ちている。そして、ぼくに不利になる言葉でもない。
「TTTOoooooOOOOO!!」
その言葉が気に入らなったのか、攻撃されたのが気に入らなかったのか。
壊れた騎士はその標的をオーガに変える。その瞬間、壊れた騎士が魔力を吸いだした。
「ワレノ魔力を吸うだと? それは勝者にのみ許された権利だ。恥知らずよ、身の程を知るがいい!」
その言葉を合図にして、二匹の化け物は戦いを始めた。今までが遊びだったと分かるほどに、数段上の殺し合いだ。
楽しそうなので混ざりたい気もするが、それは命取りなので我慢する。
ぼくは目立たないように、倒れている三人を同じ場所に集めるのだった。
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