強がり
「ぼくたちは戦いに来たんだ。会話が必要なのか?」
一歩踏み出して、オーガとの会話に挑む。
攻撃されたら、あっという間に殺される距離だろう。
「……キサマがリーダーか。これまでの道中を、楽しませてもらったぞ」
オーガは金棒を地面に置いて、楽しむように言葉を発した。
「見ていたのか、趣味が悪いな」
ダンジョンとは、ボスの体内のようなものだと聞いた。
全てを把握できて、楽しく見物することも出来るみたいだな。
「そう言うな、雑兵が訪れてきても困るのだ。ワレノ前に立つものは、強き勇者でなくてはならない」
たかがダンジョンのボス如きが、まるで世界征服をした大魔王のような言葉を吐きだす。
プライドの高さがよくわかるなあ。
「どうだった?」
「及第点と言うところだ、遊んでやるには丁度いいだろう」
ぼくたちは遊ばれてしまう程度の強さだと言うことか、もちろんぼくは戦えないのだが。
「だが一つだけ忠告をしてやろう。全てのダンジョンには冒険者どもを呼び寄せるために、宝を設置してある。それを回収せずに、全てを破壊するのは愚かな行いだぞ」
「ああ?」
そんなことは知らなかったぞ。なんでダンジョンのボスが、フィアたちよりも詳しい説明をしているんだよ!
ぼくの味方は、オーガだったのか。
「何が目的で、この場所に訪れた? 戦いを求めているようには、見えないが」
「なにって、成果だよ。強い奴を倒して、みんなに褒められたいんだ」
かみ砕いていうと、そんな感じだ。その結果として、フィアは次の大統領に選ばれる。
ぼくが求めているものは、つまらないものだが。
「くだらん、キサマモ愚物だったか。見どころのある者だと思ったが、興ざめだ」
勝手に見切りを付けたオーガが、金棒をその手に持った。
「些細な魔力だが、もらってやろう。ワガダンジョンの、礎になるがいい!!」
こうして、ぼくたちの戦いは始まった。
アメリカに来て初めてのダンジョン。十分な戦力とは言えないが、粒は揃っているだろう。
急いで後ろに下がり、代わりに飛び出したつぼみの背中を見た。
勝利を目指し、大きな成果を求めるために。ぼくたちは、オーガとの戦いを始めたのだった。
★
「……まずいな」
状況を簡単に説明すると、ぼくたちは全滅の一歩手前と言うところだ。
よく戦った方だとも思う。みんな必死に戦った。でも、実力差は歴然だった。つぼみは、金棒の二振りで。
フルーツは強力な魔道具を作っても、そのことごとくが通じなかった。二人とも、今はどこかで気絶しているだろう。
「うおおおおおおおおお!!」
懸命にフィアが戦っている。集中していれば、汚れなど気にならないらしい。
自らの血にまみれ、弾き飛ばされるたびに土まみれになっていくが。一切の関心も持たず、必死になってオーガに斬りかかっている。
だが、その全てが通じない。一つだけ勝算があるとしたら、フルーツがオーガの片腕を落としたことだ。
そのおかげで、今もフィアの命が残っている。
「この辺りが、限界か」
見切りを付けたオーガが、金棒を大きく振りかぶる。
これがトドメの一撃なのだ、フィアには避けることが出来ないだろう。立ってはいても、意識がないことがわかった。
そのことを確信したぼくは、剣を呼んで飛び出していく。
「ぐ……!!」
完璧な受け流し、剣の強度も申し分ない。
完全に成功した、筋力の差など問題ではない。どんな攻撃だとしても、ぼくなら全て受け流せると確信している。
だから、無傷だと思っていたのに。
「痛つう……」
魔力は無理だ。剣も技術も貫通して、ぼくに深刻なダメージを与える。
「ほう」
その光景を見て、オーガは二度も三度も金棒を振り下ろす。
最初の一撃で、両手の薬指と小指が折れた。その次は腕が折れて、そして内臓にダメージが入った。
呼吸が出来るので破裂はしていないようだが、口から血を吐いてしまう。
「不思議な男だ。魔力もなく、ワレノ攻撃を受け止めるとは」
また、金棒を振り下ろした。そこからは、もうわからない。
五回は数えていたが、あまりにも痛くて数なんてわからなくなった。
それでもぼくの頭は、ボロボロの身体でも攻撃を受け止めることが出来る不思議を噛みしめていた。
つい笑みがこぼれそうになった時に、攻撃の雨がやんだことに気づく。
「有り得ん、有り得んぞコレハ。魔力のない人間が、ワレノ攻撃を受け止めているだと……」
何かに驚いている姿に、こちらこそ驚いてしまう。
「人間、やる気になればなあ。このぐらい出来るんだよ」
全身から血を流し、痛みも感じなくなった体で強がりを言ってみる。
でも、必要ならいくらでも耐えるつもりだった。時間を稼げば、セカイが来るだろう。もう少しだけ、待てばいい。
この程度の雑魚に負けるわけにはいかない。ぼくの命はそんなに安くないのだ。
オーガを倒して、他のダンジョンのボスも倒して、大統領に約束を果たしてもらう。
これは楽しい終わりじゃない。まだ、先があるはずだから。
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