旅は迷走するほうが楽しい

 


「へえ、これはいいや」


 どうやってダンジョンに行くのかと尋ねてみると、フィアが駐車場に案内してくれた。


 そこにあったのは、四輪駆動の自動車。


「お婆様に借りました。レクティムと呼ばれる車種だと」


 そこにあったのは、四人乗りの黒いオープンカー。中古車のようだが、乗り心地は良さそうだ。


「詳しい説明が欲しいですね」


 何が気になるのか、フルーツが詳しい説明を求めるが。返答は芳しくない。


「申し訳ないであります。自分は詳しくないのでありますよ」


 確かにそう見える。フィアに趣味はあるのだろうか?


「ぶつけたり、壊したりしても問題はないそうで。魔法車らしいので、無免許でも運転できるのであります」


「魔法車?」


 初めて聞く言葉だ。


「燃料が魔力だったり、衝突するときに魔力のクッションが出たりと。便利なものでありますよ」


 またか、またぼくに関係ない話だ。


 魔力を使えないぼくは、こんな面白そうなものを使えない。


 どうしてくれようか……。


「とにかく、これで移動するでありますよ。この国は広く、魔法陣を使えない場所も多いでありますからね」


 ダンジョンはもとより、町や村でも使えない場所は多いらしい。


 それだけ、一般人への配慮が出来ているのか。それとも、なにかの争いがあるのか。


 深く考えるのは、やめておこう。


「へえ、いい車ですわね」


 準備を整えて、この場に辿り着いたつぼみが感想を漏らす。


 こいつからすると、及第点らしいな。


「さっそく行きましょうか。運転は……」


「ワタクシですわ! 楽しそうですもの」


 運転席に乗り込むのはつぼみだ。


 文句はないので、ぼくたち三人も車に乗る。


 助手席はフィアで、ナビの操作も担当するらしい。


「では出発するであります。最初は初心者用のダンジョンと言うことで、近くに」


「わかりましたわ。三時間も有れば、辿り着くことでしょう」


 始めは順調な旅になりそうだが、退屈なものにもなりそうだ。


「魔法車なのに、そんなに時間がかかるのですか?」


「せっかくの旅ですわ。のんびりするのが、正解でしょう」


 せっかちなフルーツに、つぼみが反論する。


 その言葉に賛成なので、ぼくは何も言わない。


「わかりました。そのほうが、お兄ちゃんも安らぐでしょうね」


 フルーツが納得したことで、この話は終わる。


 なにもないあぜ道を眺めながら、ぼくは温かい日差しを浴びるのであった。



 ★



 楽しいことは、飽きるのも早い。


 熱くなったので、屋根を出してもらうことから始まり。


 魔法車と言うものの、色々な機能を見ることになった。


「どうやら車を透明にしたり、低高度ですが空を飛ばすことも出来るのであります」


 空飛ぶ車は楽しいものだったが、風情がないとすぐに止めた。


 時々だが、近くを飛んでいる車が走っている。透明にするのは面倒なのか、何も気にしていないようだ。


「ああいう苦情が、ルシルに行くんだろうなあ」


 一般人からしたら、怪奇現象だ。まだ空飛ぶ車は開発されていない。


 色々と誤魔化し方があるのだろうが、真実を知っている奴らからの苦情は止まるまい。


「それにしても、ドライブって楽しいなあ」


「……これをドライブと呼んでは駄目ですよ」


 ぼくの感想に、フルーツがケチをつける。


「楽しければいいだろう?」


「こんなにぶつけたり、道に迷ってもですか?」


 初めてだから仕方がないのだが、つぼみの運転はひどいものだった。


 スタートから逆走だったり、ナビを完全に無視したり。


 終いには道を使うことを拒否して、よくわからない場所で迷走している。


 その間に、様々なものにぶつかった。魔法車は伊達ではなく、クッションは優秀だったので怪我はない。


 空から落ちても、びっくりするだけで済んだのはよかったな。


「そろそろ、運転を代わるのでありますよ?」


「嫌ですわよ、ようやく慣れてきたところですわ!」


 そう言って、頑なに運転席を譲らないつぼみ。


 その言葉とは裏腹に、運転技術が上がることはないらしい。


「いいじゃないか、こっちのほうが楽しい。普通のドライブなんて、もう飽きた」


「先生が言うのなら……。でも、普通のドライブなんて、まだ経験してないでありますよ?」


 そんな細かいことはいい。心配があるとするなら、いつになったら目的地に着くのか。


「もう空も暗いし、寝るわ」


 フルーツの膝を借りて、ぼくはおやすみすることにした。


 目覚めた時には、どうなっているのだろうか?

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