早すぎる再会

 


 アメリカ校からそんなに遠くない位置に、大きめの都市を発見した。テンションに任せた、数時間ほどの探索の結果だ。


 流れるように内側に入り、暴れまわるチンピラから小遣いを巻き上げる。


 水分を補給しながら、この街の名前を知った。


「ふん、ケロリねえ」


 聞いたことがない都市の名だ、魔法使いの街なのだろう。


 ちゃんと共存しているようで、普通の人間と魔法使いの両方を町中で見かける。


 明らかに人間ではない異種族も、仲良く暮らしているようだ。


 中身がなくなった空き缶をごみ箱に捨てると、本格的に街の中を捜索する。


「よし、とりあえず一周しようか」


 決意を新たに、行動を開始する。


 今日は一人だ。後のことはすっぱりと忘れて、今を楽しむことにしよう。


「そうだね、あたしと一緒に遊びつくそうよ!」


 聞いたことがない声で、誰かと同じような音を聞いた。


「ひどいなあ、むげん。あたしを誘ってくれなきゃだめだよ」


 きょろきょろと周りを見渡すと、またしても見覚えのない少年が近くにいた。


「お前か?」


「もちろんだよ、あの人形は寮でゆっくりと休んでいるからね」


 違う端末に乗り換えたのか。まったく、毎回違う顔だと困惑してしまう。


「何をしに来た?」


「言ったでしょう? むげんと一緒に遊びたいんだよ。もちろん、いいよね?」


 無邪気に笑いながら、ぼくに嫌な要求をする。……まあいいか、少しぐらいサービスをしよう。


 あの本質世界からセカイを連れだしたのは、ぼくなのかもしれないし。


 こいつなら、足を引っ張ることもないだろう。


「では行くか。言っておくけど、邪魔になったら捨てていくから」


「あたしが邪魔になるわけがないよ。むげんをたくさん、楽しませてあげるね!」


 余計なことをしてほしくはないが、余計なことを言いたくもない。


 セカイが問題を起こしたら、何も語らず距離を取ればいいさ。


「では、行こう。まずは高いところに昇って、この街の形を実感したいな」


 地べたから観察しても、目に見える範囲は狭いのだ。


「わかったよ! ……あ、むげん。お腹空いたな」


 ……早速、邪魔をされた気分だ。



 ★



「これ、美味しいね。むげんも一緒に食べようよ」


 チンピラの金でホットドックを購入すると、セカイに渡した。


 満面の笑みで食べるので、面白くなって色々な料理を与えてみる。


 食事の経験が少ないのだろう、何を食べても嬉しそうな顔をしているのだ。


「おいしいおいしい」


 どこまで食べるのか、まだまだ興味が尽きないのだが。


 いい加減に飽きた、セカイに付き合っていると永遠に探索が出来ない。


「そろそろ行くぞ」


「了解だよ。大丈夫、あたしたちの足なら、一時間もあれば全て見て回れるよ」


 観察をしないで、回るだけならその通りだろう。


 効率を求めず無駄に時間を使うことを、探索や観光と呼ぶのだと教えるのが面倒だな。


「あ……?」


 本当にセカイを捨てて行こうかと悩んでいると、見えるはずのない光景が目に入る。


 いるはずのない人間。この場にいないはずの男が、あくせくと働いている。


 なにをやっているのだろう。笑顔で働いているところを見ると、今の仕事が余程楽しいのだろうな。


 声をかけるのがめん……。いや、悪いのでこのまま過ぎ去ることにしよう。


「あ。凄くキレイ、むげんむげん。あれが欲しいよ!」


 食欲が収まったら、次は物欲らしい。


 露店でアクセサリーを売っているようで、セカイは飛びつくように寄っていく。


「あれ、無限じゃないか」


 大して時間がたっていないのに、既に懐かしい。


 離れている時間が惜しかったのではなく、既に記憶から薄れている証拠だろう。


「なにやってるんだ、エキト」


 本当になにをやっているのだろう。こいつはイギリスに店があるはずなのに。


「店はどうした? 売ったのか、それとも爆発したか?」


 こいつは自らが商人であることに誇りを持っているが、店を大切にする男ではない。


 気が向いたら、旅商人になるのも悪くはないと聞いたことがある。


「もちろん、むげんを追いかけてきたんだよ。心配だったからさ」


 エキトは何を言っているのだろうか?


「また、よろしく頼むよ」


 本当に、こいつは。有難迷惑にもほどがある。


 ……だが、アメリカまで来てしまったのものは仕方がない。


 それに、一つだけ頼み事もあるのだから。

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