幕間8

 


 人類皆兄弟、世界平和、見知らぬ誰かを大事にしよう。


 何故、自分とは全く関わりのない他人を、守ろうとするのか。


 その本当の答えは、気づいていないだけで全てが繋がっているから。


 そんな言葉に、惑わされる。納得、できてしまうから。


「繋がるって、具体的にはどういう意味だよ?」


 ぼくに見えないだけで、何らかの線で繋がっているのか。


 あるいは、魂に細工でもされているのか。


「言葉のままだよ、世界に存在するものは全てが繋がっている。過去も未来も現在も、細胞たちが語る並行世界なんてものでもね」


 例外はない、一つもない。セカイの語る言葉からは、正しいことが伝わる。


 ぼくを騙す必要などなく、何も気負わない自然体だからだ。


 当たり前の理屈を、当たり前に語っているだけ。


「あたしから生まれた世界で生きているだけで、あたしの内側からは逃れることが出来ない。あはっ、迷惑な話だよね」


 全能感と無力感が同居した言葉、その重さがよほど不快なのだろう。


 それにしても、詰んでいる。ただ生きているだけで、全てが支配されているから。


 極端な話をすると、個人と言う概念は存在しないのだ。


 みんなという言葉から、永遠に抜け出せない。繋がりとは、そういうものだろう。


「つまりどういうことだ? 全ての生命はセカイに支配されていると、絶対に逆らえない奴隷のようなものだと言いたいのか?」


 他人を大事にする気持ちも、無条件に人を信じる感情も。


 全ては目の前の少女に命令された、気持ちが悪い演目に過ぎないと言いたいのか。


「全然違うよ。あたしには意思を統一させる力なんてないし、そんなことはしないからね」


 セカイは笑いながら否定する。自分でも違うと思っていたが、実際に肯定されると安心する。


 だって、ぼくにはそんな気持ちがない。


 繋がっている実感も、無条件に他人を信じる感情もないから。


「確かにあたしの言葉には、絶対的な強制権がある。それでも色々と条件があるから」


 力を持つ者の宿命なのか、セカイには様々な制約があるみたいだ。


 絶対の力なんて、使えなければ何の意味もない。


「世界の全ては、あたしの細胞に過ぎない。でも所詮は細胞程度の繋がりだね、ほとんど関係ない」


 些細な繋がり、でも絶対的な繋がりだ。


 その些細な繋がりが、セカイを絶望させたのだから。


「全てが繋がっているのは世界であって、セカイじゃない。あたしも世界の一部だよ」


「おかしいだろ、世界の全てがセカイだって言ってたじゃないか」


「それは事実の話であって、繋がり方の話じゃないよ。世界はあたしから生まれたから、全てが一つのセカイだけど。意思はちゃんと、生命の数だけあるからね」


 世界とは、言うならば一つの身体だ。生命だろうが星々だろうが、全てを総称して世界と呼ぶ以上は、一つのものだと言える。


 全てがセカイの一部分であり、セカイが傷つくと世界も傷つく。


 本質世界こそが、現実のもので。ぼくの生きている模造世界の全ては、セカイの内側でしかないのだろう。


 よくわからなくなってきたが、話がどれだけ大きくても、セカイ一人の話だと思えばいい。


「混乱して来たぞ」


 そして繋がりとは複数で成立する、決して一人だけの話にはならないんだ。


 たくさんの生命があって、全てがセカイの影響を受けている。


 でもそれは些細なもので、みんな自分の意思を持っているんだ。


 それらをまとめるのは、セカイではなく世界だろう。


 セカイと言う人格は、全体にとっては大きな価値がないんだと思った。


「もちろんあたしは特別だけどね。でも唯一じゃないんだよ」


 ぼくの考えが正しいのなら、その通りだ。


 つまりだ。他人を信じたり受け入れる気持ちは、誰かの命令ではなく。


 同じ世界に生きている、たくさんの生命から生まれているのだ。


「意思とか心は、強いものだよ。あたしだって負けるね」


 そこに魔法や身体能力は関係ない、ただ強く想えばいいだけだからな。


 セカイの意思なんて、凡百なものに成り下がる。


「つまり、だ」


 世界の全ては繋がっている。


 なぜ繋がっているのか? 同じ世界に生きていると、強制的に繋がってしまう。


 繋がっているとどうなるのか? 他人を信じたり、受け入れることが出来るようになる。


 なぜ他人を信じるようになるのか? 繋がりに絆や、家族愛のようなものを感じるから。


 その気持ちは、誰のものだ? 世界に繋がっている、全体の意思と呼べる。


「これは少なくても、あたしの感情じゃない。細胞たちが、自然にそう感じているんだろうね」


 ぼくやセカイには分からないことだが、推測は出来る。


 自分と同じ、あるいは似ていることが嬉しいのだ。


 一つのものをみんなで分け合うことが、力になっている。


 そして共感は信頼に変わり、絆になっていく。


 普通のことで、当たり前のこと、みんなが想うことだと理解した。

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