幕間5

 


「どんどん聞いてね、なんでも教えちゃうから!」


 会話できることが嬉しいのか、セカイのテンションは天井知らずだ。


 だが、あまりにも疑問が多すぎて、何を質問すればいいのかわからない。


 まずは目先のことから、一つ一つこなしていくことしようか。


「その姿から、説明してもらおうか」


 地下室では、黒い髪に二十代ほどの外見だったはず。


 今では、まるで十歳前後の少女の姿に、五色が斑になった不可思議な髪色をしている。


 金、銀、赤、青、そして黒だ。その長い髪が、眼に眩しすぎるのだ。


 そして顔が全然違う。全くの別人としか思えない。


「説明って? あたしはずっと、こんな感じだよ」


「地下室とは違いすぎるだろう?」


 いつから姿が変わったのか? それは花畑で目が覚めた時だな、何があったと言うのか。


「あれは端末だよ。失礼だなあ、間違えないでよ」


「端末?」


 こいつの言葉はよくわからない。


 説明が足りないのだ。


「あたしが模造世界に行っちゃうと、なにもかも壊しちゃうでしょう? だから端末を使うことで、自由で遊ぶことが出来るの!」


 模造世界とは、ぼくがいつもいる世界のことだろう。ここが本物の世界で、それ以外は全て模造世界だと主張しているのだ。


 わかりやすく、いつもぼくのいる世界を模造世界。この世界のことを、本質世界と呼ぶことにする。


「うーん」


 何を言っているのかわからないが、何を言いたいのかは分かる気がする。


 セカイから感じるプレッシャーは普通じゃない。今の姿になってからは、その重さが跳ね上がった。


 このままで模造世界に行ったら、どんな影響が出るかわからないほどだ。


 それだけで全てを壊してしまうとは、全く思わないが。


「端末って?」


「模造世界にある、あたしが使える体のことだよ。深度によって、あたしの出せる力が変わるの」


 少しずつ分かってきた。


 端末とは、セカイが乗っ取れる体のこと。深度とは、どれだけセカイに近い存在かと言うこと。


 自分に似ている端末ほど、本当の力を出せる。


「最近は優秀な端末が増えてきたから、快適に遊べるんだよ。深度が二もあれば、不自由はなくなるからね」


 人類も少しずつ進歩しているのか、それは嬉しい誤算だ。


「でもそれが失敗だったよ。端末が眠りについたことで、あたしまで眠りそうだったんだ」


 セカイは不機嫌そうな顔をする。まるで大きな失敗を自覚したように。


「退屈だったから、いつもみたいに端末で遊んでいたんだ。でも今回の端末はなにかの実験台にされていたみたいで、あたしにまで影響が及んだの」


「どんな?」


「目的はあたしだったみたい。だから深度の高い端末を実験して、辿り着く方法を探していたんだよ。でも恐怖を感じたみたいだね」


 恐怖とはなんだと言うのか。


 それはわからないが、どうやら計画が様変わりしたらい。


 力を利用する計画から、眠らせて封印するようなものに。


 セカイへの道を、閉ざそうとしたのだ。


「あの趣味の悪い仮面に、意識と身体を乗っ取らせることで、全てを奪い眠らせる。最終的にそんな計画だったみたいだけど、タイミング悪くあたしに繋がっていたから」


 端末だけではなく、セカイまで眠ることになってしまった。


「本来なら、あたしに効くわけがないんだ。でも端末に応じた能力だったから」


 深度が二ということだな。その程度の力では抗えなかった、と。


「そのせいで、模造世界に影響が出たんでしょう。むげんは大丈夫だった?」


 模造世界への影響、まさかそれは……。


「おい! もしかしてあの空って」


「そうだよ、あたしが眠ったことで起きたこと。セカイが眠ったことで、世界が眠ったんだよ」


 それはおかしい、それでは滅茶苦茶だ。


「違うだろう。世界って言うのは、多くで出来ているものだ」


 たくさんの生物、たくさんの物質。とにかく多くの数が寄り集まって、一つのものが出来ている。


 その集合体を世界と呼ぶのだ。それなのに、これではあべこべだ。


 だれか一人が死んでしまっても、全体に影響が出るわけがない。


「そうだよ」


 セカイは心底楽しそうに笑う。まるでとっておきの秘密をぼくに明かすかのように。


「世界はあたしで出来ている。みんなを総称して世界と呼ぶわけじゃない、あたし一人が世界なの」


 他は全て、ただの細胞に過ぎないと言い切った。


 世界と言うものが、たった一人の個人を指す。


 それならセカイが眠ってしまったことで、全てが眠ったことに説明がつく。


 つまり目の前の少女が死んでしまえば、全てが死んでしまうと言うことだった。

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