エキトとロシアンルーレット2

 


 二人の目の客(いけにえ)は、二十歳ぐらいの女性だった。


 今度は魔法使いに見える服装で、とんがり帽子と真っ黒いローブを身に着けている。


 どこぞのクラスメイトに伝えてやりたい。お前の同類はたくさんいるみたいだと。


「次は当てる」


 エキトは二回、フルーツは一回、ぼくは三回だ。


 客(いけにえ)は商品棚を見て回る。今度はエキトが正解だった。


「なにこれ、なにこれええ!?」


 紫色の小瓶に触れた女性は、だんだんと変化していく。


 二十歳ぐらいだった見た目がどんどん老化していく。三十代で四十代、あっという間に老婆になり、腰が曲がって骨と皮だけの肉体に変わっていった。


「嘘よ、なんでこんなことに……」


 そしてそのまま、命までもが朽ちていった。


「おいおい。優秀な魔法使いは、二十歳で年齢や寿命が止まるんだろう?」


「それは違う。止まるように見えるほどに、老化が遅くなるだけだよ」


 ほんの少しづつとはいえ、ちゃんと老いていくのか。


 もっと詳しい理屈を知りたいな。また今度でいいけど。


「これは『終日の訪れ』っていう魔道具でね。この世全ての存在は、自分の終わりまでの時を進んでしまうのさ」


 そんなものに触れたせいで、女性は終わってしまったのだと。


 面白いが、残酷な魔道具だ。


「フルーツも気を付けろよ。これは最悪な終わり方の一つかもしれない」


「フルーツはホムンクルスなので、年齢による劣化はありませんよ」


 確かにそうだが、終日の定義によるだろう。


 死んでしまう時を終日と呼ぶのなら、フルーツも例外ではないのだ。


「さあ、復活だ。お詫びに魂と肉体を、最高の状態に戻してあげよう」


 エキトのサービスによって、女性は人生の全盛期を取り戻した。


 女性はその事実に喜びながら……。


「こんな店、二度と来ないわよ!」


 と、捨て台詞を吐きながら店を出ていく。


 本気の魔法で、エキトや店を燃やし尽くそうとしたようだが、一切効果がなかった上での逃亡だった。



 ★



「飽きてきたな」


 こんなのはつまらない、何故なら安全だからだ。


「安全なところから他人を弄ぶなんて、ただ面白いだけだ」


 それでは直ぐに飽きるし、ぼくの性に合わない。


 自らを危険に晒す必要がある。一歩間違えば、ぼくらが殺されるほどに。


「それは反対だな、無限を危険に近づけたくない」


「フルーツ、なんとかしてくれ」


 エキトを無視して、フルーツに話を振る。


 こいつは話が分かる。だって自分が守ればいいと思っているから。


 いつまでたっても身の程知らずなので、どんな危険からもぼくを守れると信じているのだ。


「このベルを使いましょう」


 フルーツは魔法で何かを作った。これはどんな効果だろうか。


「まだ名前も付けていませんが、使用者に縁がある人間を引き寄せるものです」


 縁がある人間か……。ぼくの知り合いには、この店に訪れることが出来る魔法使いが多くいるな。


 知り合いで遊ぶのは楽しそうで、ぼくたちに命の危険はないだろう。


 未知の人間に遭えないのは不満だが、落としどころしては妥当だ。


「エキト」


「わかったよ、楽しそうだしね」


 満場一致で決定した。


「新しいゲームにしよう。現れた客を、自由に接客するゲームだ」


 自分たちの知り合いを接客して遊ぶ、それだけでは物足りないな。


「何かを買わせたら勝ち。今までのように魔道具が暴発したら負け。どうだ?」


「それではエキトが有利でしょう?」


 確かに、店主なんだからなんでも知っているか。


「では妨害はアリと言うことで」


 エキトが接客をしている時に、ぼくとフルーツで邪魔をする。


 それならどうにでもなるだろう。


 了解するように頷く二人を確認して、早速ぼくはベルを鳴らしてみる。



 ★



「……」


「……」


「……」


「おい!」


 一時間ほど待ってみたが、何一つ反応はない。


「なんだこの不良品は!?」


「おかしいですね。十分もすれば、誰かが来ると思うんですが」


 フルーツに文句を言うと、不思議そうに首をひねっている。


 事実として誰も来ないのだから、文句を言われても仕方がないだろう。


 試してみるように、フルーツがベルを鳴らしてみると……。


 店の扉が、音を立てて開いた。


「やあ、こんにちわ」


 そこに現れたのは、世界最強の魔法使い。


 魔法学院の学院長だった。


「何しに来たんだ?」


「ご挨拶だなあ、私は客だよ」


 つまり、ベルに呼ばれて来たのか。


 三人で目配せすると、早速フルーツが立ちあがる。


「よく来ましたね、何か買っていきますか?」


 先鋒はフルーツらしい、学院長に何かを買わせることは出来るのか。


 こいつの邪魔はしない、そのほうが面白そうだから。


「おや、この店の店員になったのかい? 頑張ってね」


 学院長は微笑みを浮かべながら、フルーツの頭を撫でる。


 その手を振り払いながら、辛らつな対応をした。


「気安く触らないでください。それよりも、何が欲しいのですか?」


「特に欲しいものはないかな。そもそもなぜ、この店に足を向けたのかもわからないんだ」


 この男は強い癖に隙が多すぎる。戦い以外に能がないのだ。


 フルーツは店を見渡すと、適当な商品を勧める。


 どうやら買わせる気はなく、暴発狙いらしい。


 負けになってしまうが、学院長を痛い目に遭わせることが出来る。


 よほど頭を撫でられたことが、気に入らないらしい。


「その巻物はどうですか?」


「これかい?」


 学院長は勧められるままに、魔道具に触れる。それは初めの犠牲者を生み出した……。


 あれ、大爆発が起きるかと身構えたが。淡く光るだけで何も起こらなかった。


「あれ?」


「……凄いな」


 フルーツは不思議そうに、他の魔道具も勧めていく。


 どれに触れても、何も起きない。


「学院長はその強大な魔力で、全てを抑え込んでいるんだ。魔道具に暴発することを許さない」


 その後も、店中の商品を見学して……。


「面白そうなものがたくさんあるねえ、でも今日は何もいらないかな」


 と、笑いながら帰っていった。


 商品を買わせることも出来ず、暴発させて楽しむことも出来ず。


「ま、負けました……」


 誰が見ても完敗で、フルーツは落ち込んでしまう。


「格の違いを見せつけられたな、あの男は気づいてもいなかったぞ」


 商品が暴発するなんて、まったくわかっていなかった。その無意識な魔力だけで、自らに害することを許さなかったのだ。


「悔しいです!」


 落ち込みながらもやる気を見せるフルーツ。しかしよく負ける奴だ。


 憐れみの目で見ていると、またも店の入り口が開いた。


「こんなところにいたんですね。探しましたよムゲンくん」


 現れたのは、世界最高の魔法使い。


 どんな理由かは知らないが、ぼくを探していたルシルだった。

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