次の目的地
あれから拠点に戻り、とっとと眠る。
朝になり、起きた時には残りの日数が丸五日にまでなった。
「だんだん、テントも居心地がよくなってきたな。もう帰るのをやめて、ここで適当に暮らしていこうか?」
ぼくは、サバイバルの楽しさに目覚めそうだった。
「フルーツは構いませんが、こんな何もないところでいいんですか? テレビもなく、美味しいものも食べられない、可愛い服もない。退屈にはなりませんか?」
なんか、不満があるのはこの人形の方な気がする。
今までもその兆候はあったが、ついに贅沢を覚えたようだ。
「別に困ることはないが、ルシルが探しそうだ」
「そうですよ、きっと元マスターは地獄の果てまで追いかけてきますよ、そしてマスターに説教をするでしょう」
その光景が目に浮かぶから嫌だ。
「では仕方ない、そろそろ行こうか」
ぼくらは今日の労働を始めることにした。
★
「今日はどうするんだ?」
なんだかんだ言ってもこの仕事は楽しい。
今まで見たことがない、あるいは本の中だけの生物をこの目にすることが出来るのだから。
「近いのは死人族か、妖精種ピクシー族の縄張りですね。どちらにしますか?」
「死人族で」
妖精は見慣れているからつまらない。だがいつも見ている奴らは何族なのかが気になる。
「了解です、では北に三十キロです」
遠すぎて嫌になる、だがまあこの学院のある山はめちゃくちゃに広いので仕方がないのかもしれない。
まあ、ぼくは今どこにいるのかすら知らないのだが。
だが、まあ……。
「こんなおかしな空なんだ、普通の場所じゃないんだろうなあ」
なにせ紫の空だ。推測でよければここはきっと、色々な場所に飛ぶことが出来るワープゾーンのような場所なのだろう。
ぼくは色々と考えながら三十キロを走破する。気づいたときには、目の前は大きな穴があった。
ぱっと見ただけでも、直径が何キロもありそうな印象を受ける大きさだ。その上で底が見えない深さを誇っているらしい。一度落ちたら即死しそうな気がするのだが……。
「ここを飛び降ります」
「やっぱりか」
捻りのない展開に、飽き飽きする。もうちょっと面白くあってくれればいいのに。
「とっとと行くぞ」
ぼくは何も気にせずに飛び降りる。
「ま、待ってください! 躊躇いがなさすぎますよ、護衛を置いていかないでください!」
知るか、置いていかれるような護衛が悪いのだ。
ぼくはいつまでも落ちていく感覚に心地よさを感じながら、動く骸骨を楽しみに思った。
★
よく考えたら、このままだと地面に激突して死にそうだなあと思った。
だが心配はいらないようで、ぼくを追い越していったフルーツが柔らかくキャッチしてくれた。
「ご苦労」
憮然としているフルーツを労うと、直ぐに興味をなくして周りを見渡す。
「なにこれ?」
なんか、色々と毒の色をしている。
近くにある湖も、地面に落ちている石ころもだ。
一応、上では空以外常識的な色をしていたのに。
「当然毒でしょうね、理由はわかりませんが。触れては駄目ですよ」
「駄目なの?」
「駄目です」
では、この好奇心にどうやって折り合いをつけようか悩んでしまう。
よって、ぼくは近くに落ちている紫色の小石を湖に蹴ってみた。
「あ!」
フルーツが文句ありげに声を上げるが、ぼくは興味深い結果を得られた。
小石を蹴った靴には異常がないようだが、湖に触れた瞬間に小石が溶けてしまった。
「つまり、あれは酸のようなものなのかな?」
体調が悪くなったりするような甘ったるい毒ではなく、触れたものは死ねという意思を感じる。
それに比べると小石は優しい。毒ではなく、純粋にこういう色の小石なのかもしれない。
「マスター?」
「待て、これは必要なことだと思う。そう怒らないでくれ」
「どういう風に必要なんですか?」
「……なんだろう、いざと言う時の確認? ……いや、ぼくの好奇心のためかな?」
ぼくが真面目に考えていると、何故かフルーツはため息をついて呆れた顔をする。
「もういいです、行きますよ。おそらくは近くに死人族がいるはずですから」
「了解した」
さて、カルシウムの塊はどこで何をやっているのだろうか。
「ところで、もしこの湖にフルーツが落ちてしまったらどうなるのかな?」
「……何故そんなことを聞くのかわかりませんが、普通に死ぬでしょうね」
ぼくの質問に、なにやらフルーツが警戒している。
「へえ、ホムンクルスって……」
「なんですか! フルーツは人間に近づけて作成されているのですから当たり前ですよ、基本的に人間に出来ないことは出来ません!」
逆切れ気味に怒り出すフルーツ。
つくづく、意味のわからないお人形さんだ。
それならばホムンクルスの価値とはなんなのだろうか。人間に近いものなんて人間がいれば必要ないのでは?
元々世界に存在している生物ならともかく、何でそんなものをわざわざ作る必要があるのだろうか?
まったくもって、よくわからない。
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