魔力酔い
「で、クーデターって具体的には何をしているの?」
「シホは第一次戦争だと言ってました」
「そんなに物騒なの?」
戦争が始まっている?
「いえ、最終段階とはいえまだ討論レベルですね。学院の人間を全て集めて、学院長を罷免するべきだと主張しているそうです。内容は次期学院長の推薦と、現学院長の出した被害者数、被害額、保護者や政府の見解などです」
「へえ、どうなるんだろう?」
その話だけを聞くと、理事長は交代することが既に決定しているほどに劣勢だろう。
「シホの予想によると、全体の六割から七割は反対派ですが……。話にもならないそうです」
「なんで?」
「学院長は文句があるなら、力づくで来いと言うからですよ。力が全ての学院、決闘だって認められているのですから、意見を通したかったら自分を倒してみろと」
出来るわけがない。
「まあ、不可能ですよ。それが故に、誰が何と言おうと学院の全ての人間に反対されようと、学院長は微塵も揺らぎません。まあまともな論争をしても、今までの実績を強く主張すれば負けることはないでしょうが」
まあ、世界一の魔法学院になってるからなあ。
卒業生たちは、よっぽどたくさんの人間たちを救っているんだろうさ。
「じゃあ、問題はないわけだ。うん? ならなんでぼくをここに送ったんだ?」
「いくつか理由がありますが、一番はマスターが染まらないようにするためですね」
んん?
「マスターは興が乗ってしまえば、平気で反対派の味方をするでしょう?」
「……まあ」
「流石の学院長も、マスターを敵に回したくないんですよ。もちろん実力的にではなく、心情的に」
あの男は時々、まともな人間みたいな感情を見せるよね。
「もう一つは、マスターに敵情視察を頼みたいそうです」
「どういうこと?」
「第二次か、第三次戦争は本当に戦いが始まります。最終的には力づくで学院長を排除しようとするでしょう。ですが、実力的にどうあがいても勝てません。だから……」
「化け物と手を組むことにしたか」
人間では勝てないのなら、人間以外を連れてこい。
「既にいくつもの異種族と手を結んでいるらしいですね。でも、それはまだ確定はしていません。その証拠を集めてほしいそうです」
「いくつか候補があって、そいつらが人間と関わっている証拠でも見つけろって?」
「はい。調査によればかなりの回数の接触をしているそうですが、危険すぎて奥地にまで入れないそうです」
「危険? そんなことないだろう。強い奴なんていくらでもいるじゃないか」
ルシルに行かせろ。仮にも世界最高の魔法使いなんだから。
「その場合、その時点から本当の戦争が始まりますよ。今回のケースは学院の生徒が敵なので場合によっては……」
「罪のない学院の生徒が被害者になるか?」
「当然でしょうね、決闘でもしていたと言えばいいのですから。でも、教育としてならともかく、学院の問題で犠牲者を出すのは望ましくないそうです」
それはいいが、シホがそんなことを考えるだろうか?
あいつは割と、目的のためなら手段を選ばない奴だが。
「今回の件では、当然のことながらシホだけではなく元マスターやヴィーたちも学院長側ですから」
「まあ、ルシルならそうだな」
あいつは割と平和主義者だ、争いを好まないだろう。
意外なのはヴィーだな、やりかねないのに。
「だからこそ魔力が感じられないマスターと、人間ではないフルーツが選ばれたのです」
それは分かったけど……。
「別に眠らせなくてもよかったのに、ちゃんと説明すれば協力しただろう」
色々な意味で楽しそうだし。
「面倒だったそうです」
「……そっか」
さあ、どうやって復讐しようかなあ。
「まあとりあえず、事情はわかった。それともう一つ、体がだるいんだけど」
どうにもおかしい、体の不調が収まらない。
「ああ、そうなんですね。それは魔力に酔っているんですよ」
「酔う?」
「マスターは元々一般人ですし、精々が学院生活までですよね。この場所は大きな魔力を持っている異種族だらけの場所何です。その空気は普通の場所とは比べ物にもならない」
イマイチわからないが、高山病のようなものなのだろうか。
「症状は逆ですけどね、高山病は空気が薄くなるために起きる症状ですから」
「どうすれば治るんだ?」
「慣れるしかないですね、とりあえず安全なこの拠点でしばらく様子を見ましょう。百六十八時間でフルーツが使った魔法陣で学院に戻れるはずです。二、三日は療養に使っても問題はないでしょう」
まあ仕方がないか、楽しい日々はもう少し後で始まると言うこと。
「熟練の魔法使いでも、起きてしまう可能性が高い症状ですからね。恥じることはないですよ」
「別に恥じる気はさらさらないが、なんでお前は平気なの?」
「ホムンクルスですから」
世の中の理不尽を実感した。
死んで生まれ変わることがあったら、ぼくもホムンクルスになって人間を馬鹿にすることにしよう。
いや、別にフルーツはぼくを馬鹿にしていないが。
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