魔法社会の治療法
「あなたの考えは立派だと思いますが、私たちが心配をしていることを忘れないでくださいね?」
「心配?」
そんな筋合いはないんだが。
「……まったく、不思議そうな顔をして。あなたの傲慢は治らないみたいですね」
根本的な話だが、ぼくは傲慢ではない。だが、周りから見るとそういう風に見えるのは、事実だろう。
「ぼくは傲慢じゃないぞ」
「どこがですか!」
人間は他者を知ることで、優しさや協調性というものを理解する。
故に、生まれてから一度だって人間を理解できないぼくには、決して身に付かないものだ。
他人が傍にいても、他人と会話をしても、他人と生活しても……。
ぼくと他者とが、決して交わっているとは思わなかった。ただ近くにいただけ……。
「ぼくは、ただぼくなだけだって」
「何を当たり前のことを?」
故に、自分がこういうもの。他者とはこういうものだと把握することは出来ても、比較の対象には決してならなかったのだ。
自分は誰かと繋がってなどいない。今でもそれを実感している。
そして、たった一人で存在している人間は、自分のことしか考えない、傲慢な人間だと思われても仕方ないとも思っている。
「まあ、いいや。それは置いておいて。フルーツは?」
「露骨に話を逸らすし……。そういうところは良くないですよ。フルーツは気絶して家で寝ています」
なにやってんの、アイツ?
「あの火事の現場で、ムゲンくんを助けようと空腹を使って炎を吸い取ろうとしたそうなんですが、剣が折れてしまい魔力切れを起こしたんです」
「あの剣って、近くにあるものなら何でも吸い取るんじゃなかったっけ?」
凄い危険なものだったはずだが。
「この世の全ての物理現象と同じですが、魔法もより上位の魔法には勝てませんよ。空腹と地獄の炎では存在としての格が違います」
火と炎、水と海のようなものか。
「格上である地獄の炎を吸い込もうとした空腹は、地獄の炎によって消化不良を起こし、内部から崩壊しました。フルーツの魔法は作った武器が壊れると魔力消費する仕組みなので、同時にフルーツも意識を失ったのです」
あの空腹という剣は、フルーツのその時点で残っている全魔力と、少しの反則によって出来ていると聞いた。
それはつまり、折れた時点で全ての魔力がなくなるということだ。
成程、魔力が全部なくなると意識を失うのか……。
なんか、軽い代償な気がする。それなら何回でも繰り返せるだろう。
「あの子は数日もすれば目が覚めますよ。……あとは、エキト・エレメントは現在も集中治療室で意識不明の重体として治療されていますね。命を失うことはないようですが、本当に、ギリギリの状態だったようです」
「生きてるのか……」
よかった、ぼくの行いは無意味にはならなかったようだ。
それと、そういえばそんな名前だったな……。
今度は覚えておこう、エキトとはなんとなく縁がある気がする。
「ぼくはどれぐらいで退院できるのかな?」
「これだけ元気なら直ぐでしょうね。人間の設計図はどこの病院にもありますから」
魔法社会では病気や怪我は、魔法によって直ぐに治る。
例外は、ぼくのように特別な魔法や呪いなどを受けた場合だ。
この場合は肉体そのものが変質してしまうので、設計図通りに体を治しても、全く違うものが出来上がってしまうことがあるのだ。
正確に、ぼくの体がどういうふうになってしまったかを理解しないと、治癒魔法を施して体が爆発したり、狼男などに変わってしまったりもすると医者に脅されてしまった。
魔法社会の入院は、大体が体の異常を調べることを指すらしい。
そして人体の設計図とは、人間とはどういうものかという正確なデータのことを言う。
かなり古い時代の魔法使いの研究成果でもあり、人間と言うものが、完璧に解明されている証明でもあるのだが。
それは概念的なものであるらしく、本のようなものに触れることによってなんとなく把握できるらしいが、決して言語化も出来ないし、不思議と文字などに現すことも出来ない頭だけの理解らしい。
それを理解するにも条件があるらしく、人体と言うものをある程度理解していること、治癒魔法を覚えていることなどが必要らしい。
ちなみに、この情報は口の軽い担当医が勝手にベラベラと喋ってくれた。おかげで検査中も退屈はしなかったよ。
「昔の魔法使いってのは凄いのが多いねえ」
本当に、それに比べて今の魔法使いは本当に衰退しているらしい。
何千年も前の魔法使いたちは、この世界なんて解明しつくしているんじゃないのか?
それなのに、たくさんの人間に普及するようなものはあまりないらしい。
人体の設計図も存在は知られているが、使える人間が少なくて、数は量産できるのに魔法社会全体に普及も出来ないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます