今のフルーツの天敵
あれから三人ほどの生徒に遭遇したが、戦闘は全てフルーツに任せぼくは見学をしていた。
さっき怒らせたことも原因の一つだが、そいつらの実力が低すぎたのが理由だ。
最低でもギースぐらいの面白さがあれば最悪負けてもいいのだが、万が一にもあんな奴らに殺されるのは絶対に許せん。
その我慢のかいもあって、フルーツの機嫌も回復している。むしろ上機嫌だろう。
今ならある程度の自由が利くかもしれない。
そろそろ、ぼくにとっての二度目の戦闘を期待できる。
「次は?」
「北西の方角に、グリムがいます」
「行こう」
次の獲物はハーフエルフだ。
☆
「これは、まずいですね」
池のような場所の近くに、グリムがいた。
なんか不思議な行動をしている、少し短めの剣を振り回して遊んでいるのだ。
「あれは遊びではなくて、武踊ですね。それもエルフの一族に伝わるような本格的な」
「踊り? ……遊びには違いないだろう?」
「いえ、詳しいことはわかりませんが。魔法使いの踊りには様々な効果が付与されます。一時的に魔力の量や威力の増加、身体能力の劇的な高揚、あるいは精神を戦闘用に組み替える効果などがあります」
こいつも時間を有効に使って、戦いの準備をしているということか。
ぼくらのように行き当たりばったりじゃない奴ばかりだ、こっちのほうが楽しいのに。
しっかりと準備をして、勝率を上げて戦う。
命のかかった戦いでは正しいのだろうが、絶対に死ぬことがないこんなお遊びではつまらないやり方だ。
勝ち負けよりも、少しぐらい痛い思いをしてでも楽しもうとは思わないのだろうか。これでは訓練の意味がないと思う。
「もっとも危険なのは、魔法使いのくせにグリムが接近戦専門の戦士だと言うことです。エルフにも色々とあるのでしょうね」
成程、魔法戦士だと言うことだな。
「それも一流です。今のフルーツの天敵だと言えます」
「どういう意味?」
「フルーツはこの世の全てのものを創造できますが、今はまだ実力不足で、強力な武器を作る程度のことしか出来ません。圧倒的弱者でも強者に勝てるような凄いものは作れないのです」
ふむ、まあ作られたばっからしいからな。
「そして、フルーツには戦闘経験も足りませんし、子供の体なので根本的な身体能力も足りません。相手が普通の魔法使いなら才能と武器の力で勝てますが、しっかりと訓練を積んだ魔法剣士が相手だと相性が最悪なのです」
相性?
「接近戦で必要になる性能を、フルーツはまだ習得していないのです」
それはつまり、まだ子供だと言う意味なのだろう。
接近戦だとか遠距離戦だとか言われてもよくわからないので、これ以上は聞かないことにする。
勝てないと言うことがわかれば、それでいいだろう。
「よし、では戦力的撤退をしよう」
ぼくはゆっくりとその場から離れることにする。
「いいのですか? 十中八九、敗北が確定していますがそれでも戦うのではないのですか?」
「なんでそうなるんだ?」
「マスターは手当たり次第に倒していくといいました。この場で逃走してしまうと、その目的は果たせません」
ほう、たまには人形らしいことを言う。
ん? 逆が正しいのでは?
「負けるぐらいなら逃げるのが当たり前だろう? まだ楽しみはたくさんあるんだから」
「しかし……」
「遊びなんだ、気楽に行こう」
「遊び、ですか? これは戦闘訓練なのでは?」
遊びは遊び、実戦は実戦。そこを混ぜるとおかしくなる。
「あのなあ、戦う相手は敵ってわけじゃないし、殺されたって死ぬことがない。こんなもの遊び以外のなんだっていうんだ?」
「……そんな風に割り切れるのはマスターだけかと。訓練だとしても人間相手に武器や魔法で攻撃をする、疑似的なものだとは言え、殺してしまう。それが遊びなのですか?」
「遊びだねえ」
取り返しがつかないものを実践という。
こんなものはただの遊びだ。それも学校の授業に過ぎないのだから本気になる価値もない。
せいぜいが色々な実験、調整に丁度いいお遊びだ。
「マスターの場合自らが弱いから、戦わないので言っているのではないのでしょうね……」
「まあな、それにぼくは戦うことに興味なんてない。強くなりたいとも思わないし」
戦えるようになれば面白いとは思っているが、強くなりたいと思っているわけじゃない。
勝ったの負けたの、面倒だ。
「もしもぼくに魔法が使えたら、世界で一番強くなれる可能性があるってことなら、色々と考えたかもしれないけどね」
残念ながら色々な意味で淡い夢だろう。確実に有り得ないと思う。
いつだって強くなれるのは、強くなりたいと思う奴だろう?
そういうものに興味がない奴は強くなれない。
例外は最初から強い奴だが、それでも強さに興味がなければむやみに戦ったりはしないだろう。
それは意味のない強さだから簡単に捨ててしまえる。
少なくても、ぼくは興味がない。
だから、才能があったとしても開花することはない。
「さあ、次の獲物を探そう」
「はい、不甲斐ない従者ですみません。次こそは……」
頭の固さがルシルそっくりだ。
それでも、ぼくといることで柔らかくなっていくのだろう。
……なにも変わらないぼくとは違って。
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