第6話 すれ違う2人、私の過去「もう一度、あの頃に…」


おい、今夜の10時半だぞ


「今日はいいだろ、明日にしろよ」


すると早苗が渋々申し訳なさそうに口を開く。


「実は呼んじゃったんだよね。みーくんが話し始めた頃から、そしたら来るってさ。そろそろ着くんだじゃないかな?」


「え?何勝手な事しちゃってんの?美夢は良いのかよ!」


「実はお泊まり会って昨日から言ってて月村さんも誘ったんだよね?そしたら遅くなるけど行けそうだったら連絡するって。それにね雅、今日わたし達遊んだじゃん?むしろアレがイレギュラーだったから。月村さん実9時半までバイトって言ったんだけどそしたら

『11時くらいになるけど良いかな?』って言ってたから『気を付けてね』って言っといたよ。」


「いや、この時間女子に1人でここまでくるのは危険だろ。それに月村は隣町だぞ」


「なんか送ってもらうんだってさ。彼氏かな?」

早苗が俺を見てニヤニヤしてくる。


「まぁ彼氏がいてもおかしくわねーわな。可愛いし」


「あれー?素直に可愛いって褒めるんだね?」


美夢がどこか拗ねたように呟く。気のせいか。


俺は反射的に女子に気を使うことに決めた。


「やっぱ俺帰るわ。女子に囲まれるの居心地悪くないけど落ち着かねーし。親父に合い鍵も渡されてだから。じゃあなみんな」


するとみんな拗ねた顔をするが俺は隣だ。それに男子の俺がいると女子同士の会話に制限がかかり水を指すことになるだろう。だから俺は帰ることに決めた。


俺はそおっと美夢の玄関に向かいチェーンと鍵を開けゆっくりと出る。そして美夢の家の敷地内の門から道路の出会い頭にて一人の女の子とぶつかってしまう。


「大丈夫か?って月村!?」


目の前の美少女は月村沙織だ俺とぶつかって尻餅をつく。この時間にミニスカートはヤベーだろ。


「あっ」


そこにはスカートの中から見えるパンティと思われるものがちらっと見えてしまう。俺はすかさず目をそらす。


「桃色か…」


月村に聞こえないようにうっかり呟いてしまったが聞こえてしまったようだ。


「み、見た?」


顔を真っ赤にして訴える。


「ごめん、そのほんとごめん」


「ううん、しょ、しょうがないよ。わたしがこんなの履いてたから。それに雅君なら…」


最後の方は聞き取れなかったくらいの小さな声で何かつぶやいている。

おい大丈夫か?と手を思い差し出そあとしたその瞬間だった。


「沙織、大丈夫か?」


「う、うん」


そこには見覚えのあるうちのクラスメートの男子の姿があった。みゆはその男子に手を預け立ち上がる。そしてヘルメットを外すと見覚えのあるそれはそれは王子様のようなかっこいい顔が露わにされる。

神坂駿だった。どうやらバイクで送りに来たらしい。彼はバイクを一時駐車し、何やら電話をしてたらしい。気づかなかったがそれが終わると月村が尻餅をついていたので咄嗟に手が出たのだろう。


イケメンだイケメンすぎる。


「おう、うちのクラスのヤンキーじゃん!こんなとこで沙織の待ち伏せでもしてたのか?」


キョトンとしながら俺に怖気もせず聞いてくる。


「隣、俺ん家だから。神坂も帰り気をつけろよ。そんじゃ!」


俺はそのまま隣の家の玄関に真っ直ぐ向かう。まぁ隣だから近いんだけど。この時平静を装っていたが…否!実は動揺を隠せないでいた。


月村って神坂と付き合ってたのか。確証はないがそういうことなんだろう。


気づいたら胸のざわつきが半端なかった。なんだよこの喪失感。もともと俺は月村の彼氏でもなければ仲のいい友達まで仲良くなった覚えはない。なのになんでこんなにも胸が苦しいんだよ。


「チクショー」


何故かわけのわからない苛立ちで廊下の壁を殴ってしまう。なんで、なんでだよ?月村も神坂も別に俺と何があったわけでもねーじゃん。なんだよコレ?

わけわかんねー。そんなやり場のない怒りをどう抑えて良いかわからなかった。


「よし、風呂入り直そう」

この誰もいない静かな一軒家で俺は己の感情を一旦リセットするため風呂に入ることにした。



月村視点


先ほどまでの話、わたしはもともとこの燕山町に住んでいた。今現在は隣町の燕山町西部に住んでいる。燕山西高が近くにあったがヤンキー高と噂されていたのでそれを避けて電車で二駅の偏差値の高くて元々住んでいた燕山町の燕山東高校は以前通っていた鶴橋小学校から近くにあった。だからここに志望して見事合格して晴れて燕東生(えんとうせい=燕山東高校の生徒)になった。ここには沢山のいい思い出と嫌な思い出が交錯している。いい思い出は以前付き合っていた彼氏と塾の行き帰りを楽しんで日曜日は必ずデートに出かけてこのまま幸せな日々が続いたらいいのに…1番の思い出は地元の花火大会で2人が結ばれた日、私から彼に口づけをして結ばれた。頑張ってよかった。そう思ったのも束の間1ヶ月と少しの歳月で強制的に自然消滅することになる。他にも嫌な思い出があった、雅君や狭山君がいじめのターゲットにされたり私が人質にされてレイプされそうにもなった。それでもなによりも雅君とお別れの挨拶も言えず離れ離れになった事が1番辛かった。せめて恋人のままでいたら…連絡先がわかっていれば…だけど母さんが許してくれなかった。辛くなるだけだからって。母さんはお父さんと離婚した。私も父さんは大嫌いだった。大事に思ってくれるのは嬉しいが時々ありえない暴走をするし、サイコパスなのではないのかと心のどこかで思っていた。今は『桜井』ではなく母の旧姓『月村』として学校に通い始める。母さんが雅君から預かったという手紙は怖くて未だに見れていない。実の父親の失態を書いた罵詈雑言や私に対しての恨みを綴ったのではでは無いのだろうか?という不安。そう思うと胸が痛くなる。でも見たくてしょうがない自分がいる。まだ母さんにその手紙は預けてある。手紙を読む勇気が出たら渡すと母さんに言われた。まだ、その勇気は…無い。全てを受け入れるのが怖い、元恋人として失格だ。だから、早くこの想いを伝えなければ。


私はミス・バーガーというファストフード店でバイトをしている。そこで一緒にバイトをしているクラスメートの駿君にお願いして西岡さんの家まで連れて行ってもらった。そこで驚いた。住所を教えてもったのだが…驚きだった。以前私が住んでいた場所だった。しかもそこに西岡さんが住んでいるなんて。という事は隣は…


私は卑怯な女だ。彼は私の正体を知らない。以前付き合っていた彼女ということに気づいていない。私は変装している。といっても以前のイメージから遠ざけただけ、髪型と元々つけていなかった眼鏡をかけている。もちろん伊達眼鏡だ。雅君と向き合えない臆病な私の「逃げ」である。


神様、もうすこしだけ私に時間をください。早くこの想いを伝えなければと思っていてもどうしても彼から拒絶される恐怖と絶望感。そう思うと怖くて足がすくんでしまう。どうか、どうか嫌われていませんように…


「おい?おーい?着いたぞ!」


私はハッとする。


「駿君ありがと」


「いいって、中学からの付き合いだろ?」

彼は中学3年生からの付き合いだった。いつもサッカーに打ち込んでいたっけ。成績もいいし文武両道で女子の人気も高い。だけど引越し先の新しい家とご近所ってだけなのに私と仲良くしてくれた。今では良い友好関係を気付けているだろう。彼はいろんな子から告白されているのにことごとく断ってる。なんで?と聞いたら


「今はサッカー一筋、俺の恋人はサッカーボールだ」って。彼を見てると退屈しない。かっこいいからといってスカしてないし周りを盛り上げるムードメーカーだ。最近では中学3年生から引っ越してきた半澤君と仲良くしているらしい。


半澤君ってあの半澤克義くんかな?そう思ったが過去を思い出すにはまだ心の準備ができていなかったのだが、結局中学校卒業するまで半澤君とは疎遠だった。


「おーい?沙織?」


「あ、ごめんごめん。またボーッとしちゃったね」


そしてフラフラしながら現西岡さん宅の元実家の門に足を踏み入れた瞬間ある男の子とぶつかり尻餅をついてしまう。今日はお泊まり会ということで着替えに新しい赤いチェックのミニスカートを試しに履いたのだが多分駿君の運転中も見えてたよね?そう顔が真っ赤に火照っていた。そして今も彼がスカートに目がいっていたのに気づき股下を手で隠す。すると彼は遅れて目を逸らす。


なんで私、こんなミニスカートを履いてきたんだろう?何を期待しているんだろう?無意識って怖い。

それが自覚に変わった時また顔をさらに紅潮させていった。


私の恋物語の第2章がまもなく開けようとしていた。


「雅君……あの頃のように沙織って呼んで」


そう小さく呟く、その小さな言霊は夜空に消える。私の願いは彼に届くのだろうか。















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