弐拾伍 走行
そのために今日、彼らは正午の試合を待たず日の出と同時に起床。山を探索してある準備を整えていたのだ。
「よいか陸徒」
現在の雄国山。山界政府軍の笑声に包囲されるなかで、山爺は小声で念を押した。
「時間との勝負じゃぞ、ここからあそこまでは距離もある」
「ミニに、いや耳にタコができますよ」
返答の直後、デイダラボッ娘が合図する。
「――じゃあ、そろそろ始めるよぉ?」
手を上げ、
「よーい」
山嵐とハイエナが身構え、巨大な腕が振り下ろされる。
「ドンッ!!」
「採取スキル、〝見極目〟!!」
ビカビカビカッ!!
詠唱と共に陸徒の眼球が凄まじい閃光を放ち、レーザーのように地面を舐める。狙いを定めると、彼は猛然と駆けだした。
どういうわけか突進してくる少年に、昂と一味が硬直する。だが、少年は彼女の脇を通り過ぎた。
走行しながら体勢を屈め、さっきの眼光で照らした足元の植物を攫うように採取する。そのまま香奈美から借りたポシェットに入れ、疾走を止めずに森の奥へと消えたのだ。
「な、なんだありゃあ」戸木沢が、陸徒の後ろ姿が消失した森林に愚痴る。「あのガキ、いったいなんのつもりだ?」
「……あたいも、行くよ」
昂は釈然としない表情で述べ、部下を置いて陸徒とは逆の方向へと歩きだした。途中で、姿が霧のように背景へと溶ける。
「やっぱり昂は究極ウドに向かうか」
客席からは次々と声が上がる。
「山主の特権とはいえ相変わらずずりぃな、対戦中にワープするなんて」
「部下からも究極ウドを隠蔽してっからな、奴とのバトルでは追尾カメラもねえ。互いに信頼し合えてねえとっからして、山爺とはぜんぜん違うよな」
「けど、山主の特権以外にはフェアで山を熟知するボッ娘が許可してる条件だ。勝てる手段があるってことだべ」
「陸徒は一本だけ採ったぞ、速くてよく判別できねかったけどもコゴミみてぇだな。あの眼光、採取スキル〝見極眼〟を発動したみてえだった」
「いくら見る眼があるにしてもあの速度は異常だ。事前に選んでたのか?」
「だろうなぁ。コゴミは有り触れてるが数が多い分可能性も多用だし、選び抜かれたうまいのがある確率はウドより高いかもしれねぇ。準五の弥十郎を倒した実績もある」
「でも」理子が疑問を呈した。「相手は準後より上の元三裁人山爺が選んだウドですよね。おまけに前回は負けています。それに、今回使用していいメインの山菜は一つのみのはずなのに、なにを探しに行ったのでしょうか」
そんな客席も含めて、山爺は戦況を静観していた。香奈美のほうは両手を握り合わせて目を閉じ、ひたすらに祈るだけだった。
「頼んだよ、陸徒!」
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