3-7.ゴーディアン視点で見る『亜空大作戦スラングル』

 『闘士ゴーディアン』のシリーズ構成、山本優はゴーディアン以後も国際映画社で数々のロボットアニメ脚本を書いている。変名の日本アニメーション作品時代から山本優の関わった作品を見ていくと、頻出するモチーフやガジェットがあり、氏の思考を慮ることができる。近年CS放送や配信、Blu-rayBOXで容易に視聴できるようになったことは喜ばしい限りだ。

 今回CSで1983年放送『亜空大作戦スラングル』を初見全話視聴できたので、ゴーディアン視点から見た感想を記したい。


 『亜空大作戦スラングル』は遙か未来、亜空と呼ばれる大気のある宇宙空間世界を舞台に特別機動部隊「ゴリラ」が亜空征服を企む「クライム」と戦うという内容。

 ゴーディアンとの大きな共通点としては、初代OPED及び音楽を山本正之が担当していること。特にOP『亜空大作戦のテーマ』は山本優のほぼ単語を列記しただけの歌詞をブラスとストリングスで有無を言わせず盛り上げる伴奏で、ロボットアニメ主題歌史に残る怪作に仕上がっている。他に「ゴリラ」を連呼する女性スキャットも本編で効果的に使われ、印象に残る。


 もう一つの大きな共通点はオカモト竜馬役の古谷徹が主人公格のゴリラメンバー「ジェット」、アンノンジー長官役の増岡弘が「ゴリラ」のトリックスター的役割の老人「マジシャン」を演じていること。

 ジェットは腕は確かだが規律違反が多いはみ出し者で、ゴーディアンのダイゴに近い雰囲気。「がってんてん」が口癖のマジシャンは、暗い展開でも場を和ませ、絶体絶命のピンチにも得意の変装を駆使して駆けつける頼もしい存在だった。視聴中に増岡弘が亡くなられたこともあり、個人的に印象に残った。


 一方、敵側の「クライム」は表面は健全な企業体を装い、裏社会で暗躍していた。中盤、クライム内部でクーデターを起こしトップに立ったフォルクレーザーはゴーディアンで言えばバラスの役割。フォルクレーザーは接触してきた「オーバーロード」と名乗る意識体によって自分たちが地球人類によって亜空入植時に追いやられた古代クライム原人の子孫という事実を知る。この追いやられた先住民族というモチーフは山本優作品に頻発する。


 亜空征服のキーアイテムとして後半登場するのがタイムカプセルとなった宇宙船『帝王の船』。この中に収められた予言の解読が進まないと亜空崩壊の危機が迫る。この流れもゴーディアンっぽいが、船の前半と後半を両陣営が入手して駆け引きをするという展開は新しい。


 ラスト、予言の解読を経て「マドクター基地の奥深く」ならぬ「(首都)ギャラクタウン44層の奥深く」に侵入したゴリラは、反宇宙へと繋がる次元の穴に封印された「闇の帝王」という古代クライム原人の脳集合体を発見する。ゴーディアンの毒魔大帝統と同じモチーフだが、『スラングル』ではゴリラが直接手を下し、反宇宙へ送り出して再封印した。この際ムンクの「叫び」に似たイメージが映るが、ゴーディアン最終回でエッシャー風のイメージが使われたのを思い出す。

 最後も勝利を祝うゴリラたちであっさり終わる。ゴーティアン最終回で得た教訓として「科学解説を真面目にしても子供には分からないよね」ということで「とにかく不思議なことが起こった」と最低限の説明で済ませた感じだ。


 ゴーディアンと比べるとスラングルがいいと思う点は他にもいくつかある。ジェットの母校がクライムに襲われ、恩師に危機が迫るという話は恩師の死を覚悟したが、恩師は無事救出され、立派に育った教え子をリーダーに紹介された。これまで『マシーンブラスター』や『ゴーディアン』で主人公が恩師や肉親の死を看取ってきたのを見ているだけに山本優も丸くなったという感想を持った。


 また、後半ゴリラのライバルとして何度も戦うクライムの長官ゲルハルトは曽我部和行がポリシーを持つキャラクターを好演している。これはゴーディアンではできなかった役作りである。


 以前にも紹介したが、『スラングル』では雑誌『宇宙船』でゴーディアンを取り上げた聖咲奇が脚本家として参加し、怪獣が出てくる等、一味違った話を見せてくれた。また、ゴーディアン前半の監督、落合正宗も数回演出を担当している。

 山本優の新人への目利きの確かさは後に「會川昇」名義で大成する「会川昇」を脚本家として起用したことからも分かる。

 また、実質最終回の(最終回は総集編)演出がスラングルで演出デビューの須永司で、これもゴーディアンで演出デビューと最終回を担当し、後に大成した秋山勝仁を思い出す。ちなみに須永司はぼ同時期に『パーマン』でも演出を担当しており、私はそちらで存在を知った。


 それでは今回はこの辺で。

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