1-42.42話「面影のマダムクィーン」

 『アニメージュ』vol.26(1980年8月号)の放送予定欄では山本優は今回について、『じつのところ書きたい部分はかなりあったが、今回は思い切って母との出会いと別れに凝縮した。母の独立した生きざまがダイゴに与える衝撃とむなしさ、それがどんな演出で描かれるかたのしみにしている』と語っている。果たしてその期待に応えられたのだろうか。手持ちの録音台本を参考に見ていこう。


42話「面影のマダムクィーン」 1980年7月20日


 脚本     :山本優

 演出     :紀裕行

 作画監督   :松井栄


あらすじ


 サントーレでは武器弾薬の不足が目立ってきていた。対策を練るアンノンジーたちの会議で、花巻博士がケープギャラクシータウンで密かに武器を売っているという情報を持ちだした。そこはマダムクィーンという謎の女性が支配しているという。竜馬の映像資料によると、西海岸随一の宇宙港を持つタウンで、核爆発抑止衛星の管理を任されている大都市だ。金髪緑眼の美女、マダムクィーンの映像を見たサオリは驚いた。幼い頃別れた母親、ナオミに似ているのだ。

 買い付けにはバリー、ダルフ、ピーチィ、チョコマ、そして志願したサオリと付いてくるよう命じられたダイゴが向かうこととなった。居残りを命じられた竜馬は釈然としない。

 その頃、毒魔殿ではゴーディアンたちが西に向かったという情報をバラスとサクシダーが報告していた。ケープギャラクシーに買い付けに向かうことを察した毒魔大帝統は阻止を命ずる。

 ケープギャラクシーに到着したサントーレ隊を代表して、バリー、サオリ、ダイゴがマダムクイーンに面会する。サオリは直に対面したマダムクィーンを見て、自分を連れて行こうとする母の姿を思い出す。話を聞いたマダムクィーンは、返答は夜改めてすると言い残し、次の面会に向かった。ダイゴはお高くとまったマダムクィーンにあからさまに反抗するが、マダムクィーンは相手にしない。

 マダムクィーンの次の面会相手はサクシダーだった。サクシダーの申し出は、サントーレ軍の二倍の金額で武器を買おうというものだ。サントーレがヴィクトールタウンの生き残りであることを知らされたマダムクィーンは、兄のゲンに会いに行った時のことを思いだした。ゲンはサオリとダイゴがヴィクトールタウンにいることは伝えたが、京太郎との約束だと言い、二人に会わせてはくれなかった。マダムクィーンはサクシダーにも改めて返答すると言い、その様子を通信で見ていた毒魔大帝統はケープギャラクシーの破壊を命ずる。

 いいかげん待つのに飽きてきたダイゴは、ピーチィとチョコマを呼びつけ別行動に出る。それを知ったサオリはマダムクィーンの部屋に乗り込み、自分が娘だと名乗った。突然の再会に驚くマダムクィーン。そこへ、武器庫に侵入した三人を捕らえたという衛兵がやってきた。「ダイゴ」と呼びかけるサオリを見て、マダムクィーンはダイゴが来ていることを知る。そこにマドクターの襲撃が。マダムクィーンはサントーレ隊に武器弾薬を渡すと海岸へ避難するように言い、「ダイゴ、気をつけるのよ」と言い残す。事情を知らないダイゴに、サオリはマダムクィーンが実母であることを明かす。驚くダイゴ。

 実感を得られないまま、ダイゴは3体分離のゴーディアンで闘獣士軍団に立ち向かうが、母の安否が気になり戦いに集中できない。再度嵌入して何とか一体は必殺白光剣で倒すが、残る二体の攻撃が確実にダメージを与えていく。二体目に白光剣を突き刺して倒した後、ゴーディアンの左腕をロケット弾で吹き飛ばされたダイゴは力が入らず、死の淵で母を思う。

 ケープギャラクシータウンの命運が付きようとしている事を悟ったマダムクィーンは、最後の手段に出る。「デリンガー・クラッシュ」を作動させると、突如白亜殿へ突風が流れ込み、闘獣士を飲み込んでいく。白亜殿はそのまま地中に沈み、後には瓦礫の山が残った。

 当初の目的は達せられたが、突然の母との再会と別れがダイゴに与えたものは大きかった。

『初めて見る母に、ダイゴは自分が捨てられた怒りとかすかな母の愛情を感じながら大きく揺れ動いた。今、ダイゴの胸に母の面影だけが悲しく残っている』(伊武雅之)


解 説


 冒頭シーン、安原義人の「シュシュシュってニーンジャじゃねーか」の言い方がギャグ調でツボに来る。ちなみに録音台本では「シュシュシュ」はないのでアドリブだと思われる。

 ケープギャラクシータウンの名前の由来は恐らくケープカナベラル。宇宙港があることからも分かるが、両親は宇宙船の事故で亡くなったとダイゴがゲンに聞かされていたこともつながりがあるように思える。ただ、ビッグ・カタストロフ後の世界の宇宙港はどれくらい運用されているのか気になる。ゴーディアン本編での海岸描写は希少。

 竜馬の映像資料はビデオカセット。形状はベータではなさそうだ。竜馬の説明で、この世界ではかつて3大国家の核対立があったことが分かる。ビッグ・カタストロフの回想シーンは14話のバンク。

 ゴーディアンの出撃は目の穴から。どうやら修理が終わったらしい(バンクの都合だろうけど)。

 ダルフは今回もジャイロホバーの運転担当。録音台本ではピーチィーとチョコマが密航していて見つかるシーンがあったがカット。なのでケープギャラクシー到着後いきなり現れる。今回ロゼが出てこないのはマダムクィーン(ナオミ)の声担当だったからと思われる。

 マダムクィーンとサオリの対面シーン、向かい合い、見つめ合う二人が二分割から四分割されて回想シーンへ、という凝った演出がある。しかし、ゴーディアンのこれまでの演出からは跳躍しすぎ。ただし、録音台本からこの画面分割は指示されているので、絵コンテ時点で確定していたと思われる。この後のサクシダー登場シーンの繰り返しパンといい、やはり紀裕行演出には妙なシーンが多い気がする。バックミュージックが太鼓なのも違和感がすごい。この太鼓BGMは後年発売されたオリジナル・サウンドトラックにも収録されなかったので汎用音源だと思われる。

 ナオミがゲンに会う回想シーン、録音台本では「カウタウン」と書かれている。41話の「カウヴィレッジ」に似た入り口が描かれているのはこのせいだと思われる。本来ならカーペ・ヴィレッジだと思われるが、シナリオから違っていたのかは不明。ゲンの声は7話の増岡弘ではないのは分かるが不明。

 毒魔殿で毒魔大帝統が出撃を命ずるシーンと、ダイゴがピーチィーとチョコマに声をかけるシーンは録音台本では逆。

 マドクターの出撃シーン、黒い戦闘機は「カブト型円盤」と録音台本では表記。今回の闘獣士は録音台本で「ムシャロン」と表記。三体いるのだが皆頭部が違う。オリジナルの改修版だろうか。ちなみに録音台本では、頭から光線を出し、腕ミサイルを放つのがNo.2、頭の角を投げ、口から炎を吐き、指ミサイルを出すのがNo.3、胸からビームを出すのがNo.1である。

 デリンガーがプロテッサーのゴーディアン・ボムを持って攻撃するシーンがあるが、録音台本では普通にプロテッサーが攻撃していた。デリンガーのマグナムバンチも今回は「トマホーク」と録音台本に書いてある。必殺白光剣でムシャロンが倒されるシーンで飛ばした手が戻っているのもゴーディアンではよくあること。

 マダムクィーンの宮殿は「白亜殿」と言うのだが、名前が本編で最初に出るのは闘獣士と対戦している時のダイゴの台詞。

 ラストの伊武雅之のナレーションは録音台本にはない。

 今回の録音台本の最後には次回予告の書き込みがある。手持ちの台本で次回予告があるのは初めて。尺調整なのか文章の削りがあったり、語尾を直したりした形跡があるが、これが誰の手によるものかは不明。


今回の名言


 「ダイゴ、それが世の中の歪んだところじゃけん」(竜馬)


 「我々に従わぬ者は全てこのように滅亡への道を辿ることになるのだ。マドクターの威力、思い知るがいい、愚か者め。フハハハハ」(サクシダー)


こぼれ話


 ダイゴは父親似、サオリは母親似ということが今回で分かる。ナオミという名前は日本人でも外国人でもあるので、もしかしたらナオミも日系人かも知れない。

 マダムクィーン側近の名前は「セコム」。ちなみに警備会社「セコム」の由来は「セキュリティ・コミュニケーション(Security Communication)」の略。1972年からこの名前を使っているので、ちなんで名付けられた可能性がある。

 『ジ・アニメ』Vol.10(1980年9月号)では、山本優が放送予定欄の質問コーナーでダイゴの母ナオミの設定を明かしている。

 『上流階級の出でかなり社交的な人でした。外に出てバリバリ仕事をしたかったのですが、そうしたことを嫌う京太郎と意見が合わず別れてしまうことになった訳です』

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