第6話 f-4

 准将の地位にいた俺は、諸侯の末席に名を連ね、軍政都市サウスファイア均衡に、1万人規模の小さな領地を与えられていた。


 だが、それも今日までだ。明日には、領主の館を出なければならない。


 館の前に出ると、小さな女の子が初夏の代名詞である白いレジューネの花をもって、俺に駆け寄ってきた。


 「ヒューイットさま。私たちの領主をやめないでください!」


 少女は思いつめたような表情でそう言った。


 「ふふ……。ありがとう。でも、ごめんよ。次もまた誰か別の准将さんが来るから。心配しないで」


 俺は、レジューネの花を受け取り、少女の頭をなでた。そして、准将の階級章を服から取り外し、少女の服につけてあげた。


 「えへへ!」


 そして少女にとってそれは、きっととんでもない宝物だったのだろう。羽が生えたように、家の方に駆けていった。


 「さてと……。荷造りをしなきゃな……」


 ……


 荷造りを終えた俺は、何もない部屋でベットに横たわって、天井を見上げていた。


 すると……。


 なんだか外が騒がしい。


 トントン

 控えめに寝室のドアがノックされる。誰だこんな夜更けに。


 「ヒューイット准将……。起きてますか? 外が大変なことになっています」


 『元』副官のヘイヘに、ドアの外からそう声をかけられた。シモンとヘイヘには、身辺整理を手伝ってもらうため、館に泊まってもらっていた。シモンとヘイヘに「ユーフィリアに行く」と伝えたら、二つ返事で「俺たちもお供するっす!」と言われた。


 ……


 外に出ると、敷地を埋め尽くすほどの人々であふれ返っていた。あちこちから、「領主様に俺たち(私たち)はついていきます!」という声が上がっている。よく見ると、先ほど俺にレジューネの花をくれた少女が両親と手をつなぎ、眠たい目をこすりながら、俺の方を見つめていた。


 町の古参の長老が皆を代表し、前に出てきた。


 「ヒューイット様。シモン様、ヘイヘ様より聞きました。ユーフィリアの地へと向かわれるそうですね。苛烈な軍政を敷くこのビスニアにおいて、あなたほどお優しい領主はいなかった。我ら一同、あなた様について行く所存です」


 長老はそう言い頭を垂れた。


 これまでも、そしてこれからも、このビスニア帝国において、ヒューイットの優しい政治姿勢は稀有だった。ここに集った領民は、このことを骨の髄から理解していた。


 俺は、ちらりと准将の階級章を誇らしげに胸につけた、少女を見た。俺は、皆の意思を尊重したいと思った。


 「わかった。ユーフィリアに移住したいと言うのなら、明日、ユーフィリア・ヨークに話してみる。彼も歓迎してくれるだろう。だが、このことは決して口外しないように。己の安全のためにな」


 そして、俺の言葉が伝わったのか、集った領民たちはそれぞれの想いを胸に、帰路へついていったのだった。

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ユーフィリアの翼 餡乃雲 @unknown5222

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