第3話 f-2

 俺たち3人は、キンキンに冷えたエールとローストチキンに舌鼓を打って、ほろ酔いになっていた。


 すると、姿勢の良い壮年のソムリエが、スッと俺たちのテーブルにやってきた。


 「あちらのテーブルの方から、フェイエ様にジュリアーノ地方特産の年代物ワインの差し入れでございます。芳醇な香りと甘みをお楽しみくださいませ」


 「はあ……」


 高級ワインを奢られる知り合いなど、いないはずなのだが。

 ソムリエの指し示す方向のテーブルを見ると、ふわりとした金髪。どこか女性的な雰囲気を醸し出す、不思議な男……? と目が合った。あれは、誰だ?


 ソムリエはワインを3つグラスに注ぐと、店の奥へと帰っていった。


 俺が首をかしげていると、先ほどまで剣舞を踊っていた切れ長の目の男が、俺たちのテーブルに近づいてきた。


 「突然のことで申し訳ございません。私は傭兵団『ユーフィリアの翼』のジャレット・アルバートと申します。団長のユーフィリア・ヨークがフェイエ殿とお話したいと申しておりますので、あちらのテーブルへ、少々お越し頂いても構わないでしょうか?」


 ユーフィリアの翼だと? 彼らが参戦すると常勝無敗。北方では知らぬ者はいない。無敵の傭兵団の名だ。そして、ジャレット・アルバートと言えば、ビスニア帝国随一の剣士よりも格上とされる、最強の剣士の名だ。


 俺は、ワインを奢られたということもあり、団長様の話とやらを聞くことにした。


 「シモン、ヘイヘ。すまないが少し席をはずす。お前らは、この高級ワインでも楽しんでいてくれ」


 「「アイアイサ~!」」


 シモンとヘイヘは高級ワインにすでに夢中になっており、俺のことなど眼中にないようだ。


 「ほどほどにしとけよ」


 俺は、呆れ声でそう言った。


 ……


 「突然声をかけてすまない。蒼炎、フェイエ・ヒューイット殿。私は、傭兵団『ユーフィリアの翼』の団長を務めている、ユーフィリア・ヨークと申します」


 ユーフィリア・ヨークはそう切り出した。彼の後ろには、ジャレット・アルバートが控え、切れ長の目を、鷹のように光らせている。


 「その二つ名はやめてくれ。俺は、もう軍人じゃない」


 「ええ、存じております。ですが、未だ蒼炎の二つ名に相応しい力量は健在の様子……」


 ユーフィリア・ヨークは人の良さそうな笑顔をこちらへ向ける。


 「単刀直入に言います。フェイエ・ヒューイット殿。我々の傭兵団に入りませんか? 私はあなたの才能が欲しい。我々は『自由』や『自治』を何よりも重んじ、そのために戦っています。あなたが帝国軍人を辞めた経緯も伺っています。あなたなら、我々の理念に賛同してくださるとも思っています」


 何とも急な話だ。


 「俺は田舎貴族の元で、怠惰な生活を送るつもりだったんだがな?」


 「それも存じ上げております。しかし、考えても見てください。田舎貴族と言えど、貴族に手足のように使われるのは何も変わらない。そこに『真なる自由』はないとは思いませんか?」


 くやしいが、確かにこの男の言う通りだ。


 「……少し、時間をくれるとありがたい。元部下が俺についてくると言っているもんでな」


 「わかりました。三日後、またこの酒場に来ます。ゆっくり考えてみて下さい。付け加えさせていただくと、部下のお二人も大歓迎です」


 ユーフィリア・ヨークは朗らかな笑顔でそう言った。それは、本当に人を魅了させるような、そんな類の笑顔だった。


 「……了解した」


 軍人の癖が抜けきっていない俺は、シャレた答えもできず。そう短く答えるのが精一杯だった。


 ……


 そして俺は、飲みなれない高級ワインとエールをチャンポンした末。酔いつぶれて、つっぷしている二人の元部下。シモンとヘイヘのテーブルへと戻ったのだった。

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