第2話 f-1

 ――そこは夜の酒場。異国情緒あふれるリュートを吟遊詩人が奏で、カスタネットをもった踊り子が妖艶に踊る。


 俺はフェイエ・ヒューイット。


 このビスニア帝国の、『元』軍人だ。

 今日は俺の退職記念日。『元』部下のこの二人、シモンとヘイヘが慰労会をしましょうということで誘われ、このような賑やかな場所まで出張ってきていた。


 テーブルにドン! と3つエールの入ったジョッキが置かれる。生ぬるそうだな……。俺はジョッキに手をかざし。


 「霜よ降り注げ、アイシング」


 パキパキと音を立て、ジョッキが凍りつく。キンキンに冷えたエールの完成だ。


 ドスッ!


 「どこみてるのよ!」

 

 「グホッ!」


 銀のトレイをもって忙しく飛び回るウェイトレスの、短い丈のスカートに鼻の下を伸ばしていたシモンが、彼女であるヘイヘからミゾオチエルボーをくらい怒られていた。


 「まったく、お前らは何をやっているんだ……」

 俺は呆れ顔になる。


 「へへへ……。准将すんません! それでは、准将閣下が、晴れて自由の身になったことを祝して、乾杯!」


 「「乾杯!」」


 ゴクゴクゴク。ぷっはー。

 この一杯のために生きているようなものである。


 「見てくださいよ、准将。剣舞が始まりましたぜ!」

 「素敵ね~」


 リュートの曲調が変わり、レイピアをもった切れ長の目の剣士が、剣舞を披露し始めた。


 「俺はもう准将ではない。あと、軍人をやっていくのなら、俺に会うのは金輪際やめておいた方が良い。あのクソギツネに睨まれて、左遷されるのが落ちだ」


 「「ええ~!! 」」

 涙目になる、シモンとヘイヘ。


 「それなら、俺らも退役して、准将について行くっすよ! な、ヘイヘ!」


 「ええ! あんなのが上司だと思うと、サブイボが立つわ!」


 「だから、准将と呼ぶなと言ってるだろう……。まあ、俺はこれから、地方の田舎貴族にでも仕えてゆっくりするさ。お前らをついでにねじ込むくらいならできるとは思うが……」


 だが、冷静に考えて帝都のキャリア軍人と、田舎軍人。まだ若い『元』部下の将来にとって、どちらが良いかなど明白である。


 「「俺(わたし)らの上司はフェイエ准将しかいないですぜ(わ)!!」」


 「そ、そうか……」


 俺は、二人のあまりの剣幕にのけぞり、椅子からズリ落ちそうになる。


 仕方ないな。


 ――俺は、知り合いの田舎貴族の何とも平和そうな顔を思い浮かべ、この二人をどうねじこむか、売り文句を考えるのだった。

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