墨汁Aイッテキ!2024四月号
きみの物語になりたい
彼女を主に撮るようになってから人間を撮る回数が減ってきている。
ロボットは人間に比べて自由がきくからだろうか。
今日も新しい何かを求め、俺たちは埠頭に集まった。
紺色に白のラインが入ったゆるめのパーカー、黒のジーンズ、長靴、畑仕事にでも行くのだろうか。
「で、今日は何がテーマなんだ?」
今日は朝から雨が降っていて、重苦しい空気が流れている。海は白い波が立っていて、灰色に濁っている。
「すべてが沈んだ世界で生きる人々っていうのを思いついた。いい感じの服もあったから、着てもらった。
サイエンス・フィクションにロボットは必須だろ?」
今日もカメラを持ってモデルとして撮影するのがメインだ。今日の服は古着屋で見つけてきたらしい。
コイツはSFを何だと思っているのだろうか。
それとも、ネタに走っているだけか。
一つ言えるのは、こうなったら何を言っても話を聞かないということだ。何か作らないと気が済まない。
創作衝動とでもいうべきか。人間が持つ唯一無二の特性であり、ロボットには備わっていない機能だ。
「雨が降らなかったらどうするつもりだったんです?」
「そんなの関係ないね、ネタはまだまだあるんだ」
「まだ服があるんですか?」
「服以外にもいろいろ考えてるんだよ」
「……暇なんですか?」
「俺は学生だから、これも勉強の一環なんだよねえ」
人間の尽きない熱量にロボットは冷たい視線をぶつけている。
このご時世、何者かになるためにもこの程度の犠牲は払わないといけない。
「ま、こっちは休日を潰して付き合ってやってるんだ。
何かしら成果を得られないと話にならない」
「そうそう、これも将来のためと思えばね。
楽しいことをやろうよ」
ロボットは頭を抱え、首を振っていた。
あきれて言葉も出ないようだ。
命令すれば絵でも音楽でも小説でも作ってくれる。
しかし、家事や確定申告はやってくれない。
人間のやりたがらないことを絶対にやらないことに定評があった。そんなのは今となっては昔のことだ。
体を得たから、人間がやりたがらない単純労働から事務仕事まで何でもこなすようになった。
それら雑務から解放されたかというと、そうでもない。
ロボットを嫌う人は一定数いるし、人間がやってきたことから逃げるなと説教を垂れる人もいる。
何かと道具に振り回される世の中になってしまった。
「それじゃ、今日もよろしくお願いしますね」
「あなたは満足という言葉を知らないんですね」
「飢えや渇きがないと作れるもんも作れないからね」
視線がさらに鋭くなった。ロボットが飢えや渇きを覚えるはずがない。衝動に駆られるのは人間だけだ。
近所の公園、土手、夕日をバックに撮ってみたり、朝早くにたたき起こされたり、試行錯誤を何度も繰り返す。満足することはないのだろう。
墨汁Aイッテキ!2024四月号
https://www.pixiv.net/artworks/121776209
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